『 First Try 』 |
(1)── 仙石恒史は悩んでいた。 ずっと生死も不明だった行と、ようやく再会できたのは、ほんの一ヶ月前。 それからは、行が生きていたことを喜び、元気でいる姿を見ていたい一心で、何度となく館山の行の家に通い詰めた。 それは、目を離した隙に行がまたどこかへ消えてしまうのではないか、という不安からでもあったが、行自身も仙石との時間を楽しんでいるように見えたので、それを良いことに甘えていた部分もあったかもしれない。 いつの間にか、仙石がドアベルを鳴らしただけで、それと分かるのか、行はインターホンから呼びかけることもなく、すぐにドアを開けてくれるようになっていた。低血圧の行が眠っていなければ、だが。 やがて仙石は、下宿している兄の家にいるよりも、行の家にいる時間の方が長くなり、行もまた仙石がそこに居ようと居まいと気にしなくなった。 二人で居ることが当たり前のようになってからは、仙石はこの時がずっと続けば良いと望んでいた。 だが、ある日のこと。 仙石は気付いてしまった。 自分が行に抱いている気持ちは、親愛の情でもなければ、家族代わりというのでもなく、まぎれもない恋愛感情なのだ、と。 その発見というか衝撃は、あまりに突然に仙石の上に降って来たので、どうして良いか分からず、慌てて家に逃げ帰ってしまったほどだった。 出迎えてくれた兄嫁が不思議そうに首をかしげていたから、傍から見ても様子が変だったに違いない。 それはまさに、青天のへきれきというより他になく、 自分が親子ほども歳の違う、しかも同性に『恋』をしているなどとは、簡単に受け入れられることではなかった。 ましてや相手はあの如月行なのだから。 かつての恋をしていた自分を思い出そうとしても、あまりに遠い記憶すぎて、おぼろげな形にしかなってくれず、何の役にも立たなかった。 それにそもそも同性に恋心を抱いたことなど無かったのだから、参考になりようもないのだ。 しかし、追い詰められた時こそ、クソ度胸を発揮するのが仙石恒史という男らしい。 これまで築いてきた二人の関係が壊れてしまうかもしれないことも、行に二度と会えなくなるかもしれないことも分かっていながら、仙石は自分の想いを行に打ち明けた。 すると幸いなことに、行も同じ気持ちだったらしく、仙石の一世一代の恋は意外なほどにあっさりと成就したのだった……。 そこまでは順調だった。順調すぎるくらいだ。 だから、おそらくそのツケが回ってきたのだろう、と仙石は思っていた。どんな恋でも、全て順風満帆に進むなんてことは、きっと無いのだろうから。 「どうすっかなぁ……」 仙石恒史は悩んでいた。 今までこれほど悩んだことはないくらいに頭を悩ませていた。考えるよりも即行動の仙石が、脳みそが溶けて流れ出しそうなほどに悩んでいた。 その仙石の前には、小さな箱と小ビンが並んでいる。 どちらも手の中に入ってしまうほどのサイズだけれど、仙石の背中に重くのしかかってくるような威圧感を発していた。 箱の方は目にも鮮やかなショッキングピンクで、一見するとキャンディでも入っていそうだが、実際はそんな可愛いものが入っている訳ではない。ビンの方は青いプラスティックの容器に、透明のとろりとした液体が入っている。 つまりはっきり言ってしまえば、避妊具と潤滑剤である。 もちろんそれをどう使うかは、誰もが想像するとおりだ。当たり前の恋人同士ならば、自然と通過する道だろう。 だが、仙石と行は普通の恋人同士ではない。 仙石は男を抱いたことがないから、男同士だということも重大な問題ではあったが、それ以上に、相手が如月行だというのが深刻だった。 仙石が行を抱きしめて口付けをし、あるいは髪や頬を撫でても、行は抵抗をすることはないけれど、喜んでそれを受け入れているのではないことは、仙石にも伝わっていた。 仙石が望むなら仕方がないと思っているのが、ありありと察せられるのである。 だからおそらく、仙石が行を抱こうとしても、行はそれを黙って受け入れるに違いない。自分が望むと望まざるとに関わらず。 しかし、そんな風に行を手に入れることは、仙石の本意ではなかった。望み望まれて結びつきたいのだと、まるで恋に憧れる乙女のような夢想をしていた。 だからこそ、仙石は失敗出来ないのだ。 是が非でもお互いに後悔しないような『初めての夜』にしなくてはならない。 そのために出来ることは全てやった。行を傷つけずに抱くための知識も仕入れたし、潤滑剤も買った。 もう仙石の気持ちは決まっている。 いや、それどころか、今すぐにでも飛んでいきたくて仕方がなかった。 夢の中にも何度となく行は現れて仙石を誘った。行の姿を思い描いては、自分で自分を慰めることもあった。 やりたい盛りのガキじゃあるまいし、と自嘲しながらも、沸きあがる衝動を抑えることは出来なかった。 ……限界だった。 これ以上、抑え付けたら自分がどうなるか分からない。いくら心の中では行を傷つけたくないと思っていても、身体が言うことをきいてくれないかもしれなかった。 爆発するのは、今日ではないとしても、明日かもしれない。明後日かもしれない。そう思うだけで、居ても立ってもいられなかった。 もうそれほどの猶予はないのだと分かっていても、あと一歩の所で踏み切れないのは、仙石に自信がないからだ。 行にとってはきっと色々な意味で、初めてのこととなるそれを、後悔させないような形にするだけの根拠も経験も仙石は持ち合わせていない。 行を欲しいと思う気持ちと、行を大切にしてやりたいと思う気持ちの間で、仙石はずっと迷っているのだった……。 と、そこへ仙石の携帯が着信メロディを奏でた。 それはまぎれもなく行専用の曲だったが、設定はしてあったものの、仙石が耳にすることはほとんどない。行から掛かってきたためしなどないのだ。仙石はいぶかしがりながらも、慌ててボタンを押した。 携帯の向こうから聞こえるのは、すっかり聞き慣れたまぎれもない行の声。それほど大きくもないのに、凛とした響きがすうっと仙石の耳に入りこんでくる。 『仙石さん、今日は来ないのか?』 「え? ああ、いや、どうするかな……」 思ってもみなかった行からのいきなりのお誘いに、仙石は戸惑いを隠せなかった。行に会ってしまえばきっと抱かずにはいられないだろう。だからこそ、即答は出来なかったのだけれど。 行はその返事を否定と判断したらしい。 『そうか、分かった』 淡々とした言葉が返ってきて、仙石は慌てる。 「ち、違う。行くよ。行くつもりだったんだ。本当だぞ」 勢い余って宣言してしまったが、こうなれば行くしかないのだ、と覚悟を決める。それでも電話の向こうの行の声は特に喜んでいる様子もない。 それどころか。 『オレは別に、来て欲しいなんて言ってない』 「……あのなぁ」 それなら何のためにわざわざ電話を掛けてきたというのか。 いつまで経っても素直になれない意地っ張りな行に半ば呆れながらも、仙石はからかうようにささやいた。 「それじゃ、行かなくても良いんだな?」 『そうも言ってない』 「どっちなんだよ」 仙石が容赦なく問い詰めると、ぼそぼそとつぶやく声がした。 『あんたの好きにすれば良いだろ』 「じゃあ今から行くからな。待ってろよ」 その仙石の言葉に応えるように、電話の向こうから、カサリと何かがこすれるような音がする。 きっと行が小さくうなずいたのだろうと仙石は思った。単なる想像だったが、間違いはないと確信していた。 『それじゃ』 そっけない言葉を残して、行からの電話は切れてしまった。 だが、仙石の心は弾んでいる。期待と不安がない交ぜになった感情は、まるで遠足の前日の子供のようだった。こんな気持ちになるのも久しぶりのことである。 仙石は押し入れの中から古びたカバンを引っ張り出してきた。スケッチに行く時などは、これに雑多なものを放り込んで出掛けるのだったが、今回はもちろん例のブツをそっとしまった。 そして、いそいそと行の自宅へと向かうのだった……。 スピード違反で捕まりそうな速さで車をぶっ飛ばした仙石は、かなりの早さで行の家に辿り着いた。おそらく今までの新記録だろう。 逸る気持ちを抑えながら、それでも荒っぽくドアベルを鳴らすと、すぐにドアが開いて、行が不機嫌そうな顔で出てくる。 しかも、その愛しい恋人が発する言葉ときたら。 「やっぱり来たのか」 「来て悪いのかよ」 「別に。ただ呆れただけだ」 どうしてこいつは素直に喜びを表せないのか、と仙石の方がよほど呆れた。いくら何でも本当に来て欲しくなかった筈もない。 でなければ、わざわざ電話を掛けてくる意味がないのだから。 「それなら今から帰っても良いんだぞ?」 ためしに出来もしないことを言ってみると、行はくるりと背を向けた。 「……そんなこと言ってない」 「意地っ張りめ」 仙石は無造作に靴を脱ぎ捨て、背を向けている行の身体を後ろから抱きしめる。 かつてのダイスの凄腕の工作員でも、仙石には容易く背中を見せるし、隙だらけなので、こんなことも出来るのだ。それこそが自分に心を開いてくれている証のようで、仙石は嬉しかった。 「な……、離せ……っ」 いきなりのことに、腕の中で行はジタバタともがくが、言われるままに離してやるつもりなど欠片もない。 行が本気になったら、仙石の腕など振りほどけない筈もないのだから。そんな口先ばかりの抵抗など、かえって仙石を喜ばせるだけだ。 「本当に可愛いなぁ、お前は」 「……何言って……っ」 ムキになりながらも、長い髪の下から覗く耳は赤く染まっている。そこへ軽く息を吹きこむと、行は小さな吐息をもらした。 その反応に気を良くした仙石は、行の耳に舌を差し込んだり、耳たぶを軽く噛んでみたり、息と共に甘い台詞を吹き込んだりもした。 そうするごとに、行の身体は小刻みにけいれんする。形の良い唇から愛らしい喘ぎ声がこぼれ、仙石はそれにうっとりと聞き惚れた。 すると……。 「いい加減にしろ」 「うぐ……っ」 ついさっきまで可愛く啼いていたのと、同じ唇から出たとは思えないほど冷たい口調で言うと、行は容赦なく仙石の足を蹴り上げた。 行のかかとがいわゆる『弁慶の泣き所』に見事にヒットして、仙石はがっくりとくずおれる。 床にへたりこんでしまった仙石は、まるで土下座でもしているような態勢になった。自分でもそれに気付いて、苦い笑いを浮かべるが、ふと、これはちょうど良いチャンスなのではないか、と思い付いた。 そこですかさず仙石は、きっちりとひざを揃えて正座をすると、こちらを無表情で見下ろしている行に向かって、深々と頭を下げる。床にひたいがこすりつかんばかりの勢いで。 「何のつもりだ?」 首をかしげる行に、仙石は単刀直入に言い切った。 「頼む。お前を抱かせてくれ!」 あまりにもストレートな物言いだったが、それしか思い浮かばなかったし、だからといって、何も言わずに押し倒すのも申し訳ないような気がしたのだ。 しかし行は表情一つ変えずに聞き返す。 「どういう意味だ」 「え……? いや、その、つまり…」 まさか意味を訊ねられるとは思わず、仙石はしどろもどろになった。これ以上に直截的な表現をするなら、お前のピーに俺のピーを挿入したい、なんて言うしかないのだろうか。 それでも必死に乏しいボキャブラリーの中で、どうにか相応しい単語はないかと探していた仙石に、行はしれっと言ってのける。 「つまりセックスしてくれってことか?」 「……セ……ッ」 仙石は絶句した。最近の若者ならばともかく、仙石は古い人間なので、そんな単語を軽々しく口には出来ない。とにかくうなずくしかなかった。 しかし、仙石の戸惑いや困惑も、行には全く伝わってないのか、相変わらずの淡々とした感情の読めない口調で、話は一方的に進んでいく。 「あんたがしたいなら、オレは構わないけど。で、どうするんだ。やっぱりシャワーでも浴びた方が良いのか? オレは経験ないんだから、あんたがしっかりしてくれよ」 そう言いながらも、今にもバスルームに向かおうとする行を、仙石は慌てて引きとめた。 「ちょ、ちょっと待て。お前な、そんな簡単に決めて良いのか? もっと良く考えてからでも遅くないんだぞ」 「あんたがしたいって言ったんだろ」 「そりゃそうなんだが…」 多少の抵抗は覚悟の上だったので、こうもあっさりと受け入れられてしまうと、逆にどうして良いか分からなくなった。そこでハッと気がつく。 「もしかして、お前。何をするのか、分かってないんじゃねえのか?」 恐る恐るたずねてみると、しごく簡単な答えが返ってきた。 「セックスだろ」 「だから、そのセッ……、それが、どんなもんか知ってるのかって聞いてんだよ。もちろん男同士の奴だぞ」 むさくるしい顔を真っ赤にしながら尋ねた仙石に、行は平然と応える。 「さあ、知らない」 「お前は……っ」 仙石は頭を抱えたくなった。 いや、実際に抱えた。気が遠くなりそうだった。 こんなことになるのなら、いっそ何も言わずに実力行使した方が良かった、と死ぬほど後悔した。 すると、ずっと立ちつくしていた行が、仙石の前にぺたりとしゃがみ込む。二人の視線がようやく地面と平行になった。 「だって、仕方がないだろ。初めてなんだから……」 行はほんのかすかに頬を染めると、ボソリとつぶやく。その姿を見た瞬間に、仙石はあっさりとエロオヤジに豹変した。単純である。 「それなら俺がじっくり教えてやるよ」 まるで舌なめずりでもしそうな様子に、普段の行なら『気色悪い』の一言で済ませる所だが、今は何故か素直にうなずく。これではまるで小羊が狼に食べてください、とでも言っているかのようだ。 さすがの仙石も良心が咎めて、コホン、と一つ咳払いをして解説を始める。だが肝心な単語を口に出来ないので、どうにも歯切れが悪い。 「えーっと、だからな。俺のアレをお前のそれの中に入れて……」 「つまりアナルセックスだろ」 「……お前は……っ、どうしてそんな時だけ、きっぱりはっきりしてんだよ」 仙石は呆れたが、一抹の不安を覚えて、そっと尋ねる。 「そういう知識はあるんだな?」 「言葉の意味は知ってるけど、実際にどんなものかは知らない」 「そんなの俺だって知らねえよ」 長年、海の上で生活してきた仙石は、その手の話はずいぶんと耳にしてきた。先任伍長という立場上、情報は手に入りやすい。それどころか誰と誰がそういう関係だったか、なんてことまで熟知していたものだ。 だが、それでも仙石はその方面に足を踏み入れたことはない。 機会が全くなかったといえば嘘になるが、女房子供のことを思えば、そんな気にならなかったというのが本音だ。 だから今こうして、行と一緒にまさにその道に進もうとしている自分が不思議な気がする。これまで男に性欲を覚えたことなど、これっぽっちもなかったのに。 それだけ如月行は特別な存在なのだ、と仙石は自分を納得させ、戸惑い顔の行の身体を強く抱きしめた。 そして真剣な口調でささやく。 「お前を欲しいと思う。抱きたいと思う。だがな、お前につらい思いをさせたくはない。俺も初めてだから、どこまで上手くやれるか分からんが、出来るだけのことはするからな。お前も協力してくれ」 「分かった」 行の応えはいつも簡潔だ。仙石は、本当に分かってんのか? と思いながらも、とにかく次の段階に進むことにするのだった……。 しばらく二人で、どちらが先にシャワーを浴びるかでもめた後、結局は仙石が先になった。身体を洗っている間も、ドアの向こうが気になって仕方がない。 今にもあの扉が開いて、行がおずおずと入ってくるのではないか、などと妄想めいたことばかりを考えた。もちろんそれは仙石の夢想で終わってしまったのだけれど。 そこはかとない空しさを感じながらリビングに戻ると、行はお気に入りのソファの上にひざを抱えて座っていた。落ち着かないのか、そんな姿は子供のようにあどけなく見える。 しかし、仙石の気配に振り向いた時には、すでにいつもの行だった。 「あんたにしては珍しくゆっくりだったな」 「艦の中じゃあるまいし。シャワーくらいのんびりさせてくれ」 「別に責めてる訳じゃない」 「文句言う暇があるなら、さっさとお前も入ってこいよ」 仙石の言葉ももっともだと思ったのか、行はそれ以上は何も言うことなく、着替えを手にバスルームに向かった。 そんなのどうせ脱がすんだから、バスタオル一枚で出てきてくれなんて、あの行に望む方が間違っているな、と仙石はひとり苦笑した。 それでも風呂あがりの行は、十分に扇情的な眺めだった。 洗いたての髪からはほのかにシャンプーが香り、したたる雫が首筋を舐めるように伝う。 上気した頬も、どことなく潤んだ瞳も、パジャマ代わりのTシャツから覗く鎖骨も、全てが魅力的だ。 はっきり言ってしまえば『美味そう』である。 これまでにも仙石は行の家に泊まったことがない訳ではない。風呂あがりの姿も何度となく見てきている。 それでもその時は自制心が働いていたのか、それとも仙石自身がそんな目では見ていなかったのか、行に色気など感じたことはなかった。 それどころか、ぼたぼたと雫をたらしながら無造作に歩く行をつかまえて、髪をタオルで拭いて乾かしてやっていたくらいだ。ほとんど子供扱いである。 そんな時はついでにキスの一つも落としはしても、それ以上にどうこうしようなど、思いもつかなかったというのに。 今の行は、その時の行とは別人のようだった。 それはつまり行の方も、その気になったために、何らかのスイッチが入ったということだろうか。 濡れた髪をかきあげる指先の仕草すら艶めかしい。 ほう、と小さく吐息をつきながら、髪をタオルで拭いている行を、思わず食い入るように、いや舐め回すように凝視してしまう仙石だ。 白いうなじに目を奪われていると、そのうなじが……ではなく、行がこちらを振り向いた。 「何見てんの」 「あ、いや、その……」 こちらを見つめる黒い双眸に気おされるように、仙石は口ごもる。所在無く頭をぽりぽり掻きながら、つい本音を白状した。 「まぁ、なんだ。お前があんまり色っぽいから見惚れちまってな」 「オレが……? 色っぽい? 何言ってんだ、あんた。目がどうかしてるんじゃないのか」 そんな憎まれ口を叩いていても、行の頬は赤く染まっている。意地っ張りな所も可愛くて仕方がなかった。 (さすがに、そろそろ限界だな……) 仙石は一つ深呼吸をすると、性急に行の身体を抱きしめた。 「ベッドに行くぞ。……良いよな?」 ここまで来ても尚、念を押す仙石に、行は小さくうなずく。 それを見た瞬間、仙石はにやりと笑う。 「抱いて行ってやろうか?」 「必要ない」 ムードを盛り上げる、ということを知らない恋人は、あっさりと仙石の申し出をはねのけてしまったので、二人はまるで二人三脚でもしているかのように、ぎくしゃくと寝室に向かうのだった……。 |