『心までも』 |
「ん…」 角松が目を覚ますと、すでに部屋は暗くなっていた。毎日特にすることもないから、退屈のあまりベッドで横になっているうちに眠ってしまっていたのだろう。それでも右手は無意識のうちに如月の存在を探す。 如月と出会ってから、6日ほどが過ぎたが、毎晩のように身体を合わせていたから、すっかり癖になってしまったようだった。 それでも如月が角松の腕の中で眠ってくれたことは、未だないのだけれど。 抱かれている時は、身も世も無く乱れもし、切ない喘ぎを上げて、角松にすがりついてくるのだが、事が済んでしまうと、何もなかったかのように服を着て、自分の部屋に戻ってしまうのが常だった。 それが身体は許しても心は許していないかのようで、寂しく思う角松だったが、そもそも如月の心を求める権利が自分にはあるのだろうか。 確かに最初、誘ってきたのは如月の方からだった。それを抗えなかっただけだと言い訳することも出来るが、今となってはもう遅い。すべてを如月の責任にして自分は逃れようなんてことは出来なかった。 如月を欲しているのは事実なのだから。 如月を抱いている間は、いや抱き終えてからも、離したくないと思う。ずっと留めておきたいと思う。 しかし、それが恋愛感情なのか、それとも単なる執着なのか。角松には判断できなかった。 そして如月が、いったいどちらを求めているのか、も。あるいはどちらも必要としていないかもしれないが。 角松は深い吐息をつきながら、ベッドから身体を起こした。そのまま部屋を見回すが、残念ながら如月の姿はない。眠ってしまった角松に毛布を掛けて、自室に戻ってしまったのだろう。 「今日は一人寝だな…」 窓の外を眺めてぼんやりとつぶやくと、まるでそれが聞こえたかのように、ドアがそっと叩かれた。コンコンと二つ、そして少し置いてコンと一つ。用心のために如月が決めた合図だった。 角松ははやる心を抑えながら、扉を開くと、もちろんそこには如月が立っていた。 「起こしてしまったか?」 「いや、ちょうど起きた所だ」 角松がそう言うと、如月は心なしかホッとした様子だった。 「入っても?」 「当たり前だろ」 ここまで来ておきながら、遠慮する如月が可笑しくて、角松は思わず吹き出した。 こうして如月が部屋を訪ねてくるのは、最初の夜と同じだったが、すでにその時のような、ぎこちなさは二人の間に存在しない。 角松がドアを閉めて鍵を掛けた瞬間に、如月がその腕の中に身を委ねた。そのまま慌しく服を脱ぎ捨てて、ベッドに転がり込む。それからはいつもと同じだった。 濃密な時間が過ぎ去ると、如月が恥らうかのように背を向ける。その身体を後ろから抱きしめながら、角松は思わず口に出していた。 「行くな…」 その言葉に、如月はびくりと身体をふるわせる。逃げるようなそぶりはないが、それでも何も答えてくれはしなかった。 …やはり無理か。 角松があきらめかけて、腕の力をゆるめた時、如月がそっとつぶやいた。 「今夜は少し冷えるようだ」 「え?」 今はまだ9月の半ばである。そろそろ秋風も吹く季節だとはいえ、そこまで寒い筈がなかった。 不思議そうに聞き返した角松に、焦れたように、如月はもう一度つぶやく。 「一人で眠るには…、少しな」 「あ、ああ。そうか。そうだよな。ちょっと寒いよな、うん」 慌てて角松もぶんぶんとうなずき返す。締まりのない顔になっているのが自分でも分かった。 それでももちろん如月を離すつもりはなく、狭いベッドで二人身を寄せ合うようにして、眠りにつくのだった…。 おわり |
ここまで読んで下さってありがとうございましたm(_
_)m
基本的にラブラブはラブラブなんですけども、 それでも少しずつ二人の関係が変わっているのが分かるでしょうか? というよりも、如月さんが打ち解けてくれるかどうか。 問題はただそれだけ、だったりします。 それでいて、身体は許しちゃってるからね(苦笑)。 その辺が如月さんのアンビバレンツな所と言うか、 微妙に素直になれない感じがツボなんです。 いや、自分でそう思っているだけで、 読んでいる方は、そんなの如月さんじゃない、と 思われるかもしれないんですけども。 2005.03.09 |