【えせほし─似非星─ 】 kyo-ko

『白昼夢』



「あの角松という男、何者だね?」
 どことなく詮索するような、責めるような口調の矢吹に、如月は苦笑する。
 まさか妬いている訳でもないだろうが、それでも多少なりとも関係を持った間柄ということで、気にはなるのだろうか。

「なぜ溥儀を守ろうとしておるのだ?」
 重ねられる問いに、単なる好奇心以上のものは伺えなかったが、そう言えば昔から嫉妬深い男ではあった、と如月は古い記憶を呼び覚ます。

 しかしそれも一瞬にして、新しい男の記憶に塗りかえられた。警戒心の欠片もなく、抜ける青空のように笑う男を思い出す。
 つい先刻も、矢吹に呼ばれたから席を外す、と言うと、久しぶりに会った知人なのだから、ゆっくり話して来い、と満面の笑みで部屋を追い出された。如月と矢吹がどういう『知人』なのかなど、気にも留めないらしい。

 いや、それとも気にしていない振りをしているのか。そうだとしても、『あいつは何者だ?』と決して訊ねない角松の気遣いが、今の如月には心地良かった。


「さぁ…」

 謳うようにつぶやきながら、如月は予測不能な男のことを考える。
 角松がどうして溥儀を救ったのか、自分には分からない。

 おそらくは、かつて角松が草加を救ったのと、同じ理由なのだろう。目の前で誰かが死にかけている所に、手を差し伸べないでいられる男ではない。
 その結果、草加の為すこと全てを自分の責任と思い詰め、こんな所にまで来てしまっているのだから、ほとほと呆れた男だと思う。

 そこにどうしようもなく惹かれてしまうのも確かなのだけれど。


 だからこそ、またも自分から重荷を背負おうとしている男に、呆れながらも、途方に暮れながらも、手伝いをしてしまっているのだろう。
 どんなことでもしてやりたかった。
 自分に出来ることならば。

 知らずして、如月の唇から笑みがこぼれる。


 そこへ、またも矢吹の責めるような口調が続いた。
「君は作戦目的に、疑問を抱いたことはないのか?」

 如月には矢吹が何を言っているのか、何を自分に言わせようとしているのか、理解出来なかった。これほどまでに、この男を遠く感じたことはなかった。
 いつの間にか矢吹が離れてしまったのか、あるいは如月が遠ざかったのか。それともその両方だろうか。


 角松のことは理解出来る。
 ただ、それが如月には実感出来ないだけだ。

 あの男の心の中には一本の柱が立っている。
 その柱は太く真っ直ぐで揺るぎない。
 角松は、必ずその柱という信念に従って行動しているから、どんなことをやろうとも、ああ、またか、と思うだけなのだ。

 ただ、納得させられてしまう。意志を込めた強いまなざしで。
 角松がそうしたいのなら、仕方がないと思わせるものがある。

 しかし如月は、矢吹の中に柱を見出すことは出来なかった。
 矢吹が何を見て、何を考え、何を基として行動するのか、分からなかった。
 それでもかつては、この男を理解出来ないことすらも、分かっていなかったのだから、多少は進歩したのだろうか…。


 如月は微笑みを収める。
 そして、静かにつぶやいた。
「あなたと違って、起きている間に夢は見ない…」


          おわり

ここまで読んで下さってありがとうございましたm(_ _)m

す、すみません…(平謝り)。
この場面を読んだ時から、ずっと書いてみたかったのです。
私なりの解釈というか、イメージですかね。
でも不快に思われた方がいらしたら申し訳ありません。
ラストのあの台詞が、もうたまらなく好きなのです。全ては愛故に…。

そして、私はなるべく原作とリンクさせたい性質です。
むちゃくちゃ制約がある中で、
どうやって遊ぶか、考えるのが楽しいという…(マゾか)。
二次創作のスタンスとしては、
どうなの?と思いますけれど(苦笑)。

えーっと、それから、当サイトの設定では、
如月さんは矢吹医師と関係がありました(過去形)。
あくまでも恋愛じゃなく、身体だけの付き合いですが。
(向こうがどう思っているかはともかく)。

松月SSで、如月さんが「初めて」じゃないというのは、
つまりは、そういうことです。
あ、でも矢吹医師が「初めて」でもありませんが(爆)。
初めての相手も漠然とイメージはあるんだけど、
その話を書く日はきっと来ないでしょう…。

2005.03.29

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