魔人學園

「平行世界編」

 


第三十章 記憶(後編)


「なァ、ホントに退院させちまって、イイのかよ」
 不満げに拗ねた顔をする京一に向かって、院長は巨体を揺すりながら、事もなげに答える。
「仕方がないね。身体には何の異常もない。記憶が戻らないとしても、それだけでベッドを占領させておく訳にはいかないんだよ。ウチも慈善事業じゃないのさ」
「……それはそうかもしれねぇけどよ」
 京一はどうにも納得が出来なかった。

 確かに院長の言うとおり、このまま龍麻をずっと入院させていたとして、元に戻る保証など無い。
 けれど、ここは普通の病院ではないのだ。京一には想像も付かないような、スゴイ術や治療方法が何か出来るのではないかと期待してしまう。
 たとえ万に一つだとしても、一縷の望みがあるのなら、それに賭けたいと思うのは人情だろう。

 だが、院長の言葉は簡単にして簡潔だ。
「この子に私がしてやれることは、もう何も無いよ」
「そっか……」
 おそらく院長としても、忸怩たる思いがあるのだろう。己の無力さを痛感させられるに等しいのだから。
 地獄の鬼ですら裸足で逃げ出すような風貌の院長でも、龍麻を見つめるまなざしは穏やかで優しい。それを前にしては、京一も引き下がらざるを得なかった。


「分かった。じゃあ、家に連れて行くぜ」
「ああ、それが良い。病室に閉じこもっているよりも、何かを思い出すきっかけになるかもしれないからね」
「そうだな」
 京一はうなずくと、龍麻の肩を抱くようにして、病室を後にする。
いつもの学ランに着替えさせられた龍麻は、外見上はあの最後の戦いの時と、全く変わっていないようだった。

「行くぞ、ひーちゃん。足元気を付けろよ」
「きょ……いち」
 どうやら龍麻は、目の前の人間が『京一』という存在であることだけは認識出来たらしく、京一の顔を見ると、あどけない笑みで名を呼ぶようになっていた。
 それが唯一の進歩と言えるだろうか。

「ああ、一緒に行こうな、ひーちゃん」
 京一もまた龍麻に笑顔を返す。
 自分にはこうすることしか出来ないから。御門に言われてしまったように、頭の悪い自分は余計なことを考える必要なんて無いのだ。
 退院の手続きや、入院費の支払いなどは、全て御門が手を回してくれたようで、京一は何の問題もなく龍麻を外に連れ出すことが出来た。


 しかも病院の前に出た所で、黒塗りの立派な車がうやうやしく出迎えてくれる。
「龍麻様をお送りするよう仰せつかっております」
 いかにも『運転手』という風情の壮年の男が、折り目正しく頭を下げた。これも御門の差し金だろう。だが彼はどこか無表情で機械的な雰囲気を持っているから、もしかしたら式神なのかもしれなかった。

「ああ、分かった。それじゃ、よろしく頼むぜ」
 京一は龍麻と共に、車の後部座席に乗り込む。シートは適度なやわらかさと弾力で、二人の身体をゆったりと包み込んでくれた。
「ひーちゃん、これは車っていうんだぞ、速いだろ。窓の外、見えるか? 他の車も走ってるよな。高いビルもたくさん建ってるだろ。新宿駅なんか行ったら、スゲェ人がいっぱいで、ひーちゃんは目を回しちまうかもな」
 龍麻からは応えが返ってこないけれど、京一は話し続ける。それでも龍麻の表情に特に変化は見られない。窓の外の風景にも何の関心もなさそうだった。

 程なくして、二人の住むアパートへと到着する。小さめのマンションと呼んでも良いくらいの建物の前に車を横付けにすると、運転手が後部座席のドアを開いた。
「どうぞ」
「ありがとさん」
 京一は龍麻の手を取り、車から降りる。もちろん龍麻に何の変化もない。自分の住んでいた家に戻ってきたというのに。


「なんか、ずいぶん久しぶりに帰る気がするよなァ」
 家の鍵を開けながら、京一は思わずつぶやく。
 ここを二人揃って出ていったのは決戦の朝。それからは、龍麻が眠ってしまったので、京一もほとんど家に戻っていなかった。
 病院の面会時間が終わって叩き出されると、当てもなく夜の町をふらついて、どうしても眠くなった時だけ、仕方がなく帰るような日々を送っていた。
 龍麻の居ない家など、意味がないのだから。

「あんまり掃除もしてねえしな。ホコリっぽくても怒るなよ、ひーちゃん」
 きれい好きで几帳面な龍麻は、いつも家の中を整えていて、チリ一つ落ちていたことがなかったけれど、京一だけではそうはいかない。
 懐かしくも感じる我が家に足を踏み入れて、京一は元気よく声を上げる。

「ただいまーっと」
 その声に驚いたのか、龍麻が愛らしく小首を傾げた。
「きょ……ち?」
「家に帰ったら、ただいまって言うんだ。ほら、言ってみな、ひーちゃん」
「ただ……ま?」
「ああ、そうだよ。ただいまってな。上手いぞ」


 生まれたての赤ん坊に言葉を教えるかのように、京一は辛抱強く龍麻に声を掛け続ける。
 それに対する龍麻は、言葉を理解するというよりは、京一の声をおうむ返しにしているばかりのようだったが、それでも何も言ってくれないよりは、多少は気も晴れた。
「ほら、ひーちゃんの家だぜ? このソファもひーちゃんが買ってくれたんだよ。オレが寝袋じゃ可哀想だってさ」

 背もたれを倒すと簡易ベッドになるソファは、もちろん京一の寝床でもあったし、昼間は龍麻と二人でくつろぐ場所でもあった。
 恋人同士になってからは、ぴったりと身体を寄せ合いながらテレビを見たり、ついでに口付けを交わしたりもした。
 京一にとって、このソファは龍麻との思い出がいっぱい詰まっている場所だ。

「ひーちゃん、ここに座ってろよ。そうそう、そんな感じでな。喉乾いてねぇか? 腹も減ってるよな。いや、メシよりシャワーが先か? 病院じゃ風呂にも入れなかったもんな。っと、部屋の暖房も入れないと」
 京一は家の中を忙しく歩き回り、あれこれと龍麻の世話を焼く。
 龍麻は京一に言われるままにソファに腰を下ろし、出された水をこくこくと飲み干した。その様子を見れば、喉が渇いていたらしいことは分かるが、それを京一に訴えてくれないのであれば、どうしようもない。


 食事は一緒に取るとしても、トイレや風呂はどうすれば良いのか。病院では看護師が世話をしていたようだけれど、自分にそこまでの面倒が見られるか、京一はあまり自信がなかった。
 だが、ここは龍麻の家だ。
 記憶は無くしてしまっても、身体が覚えていることもあるかもしれない。しかも龍麻は鍛え上げられた武道家でもあるのだから。

 そんなほのかな期待を抱いて、龍麻をトイレの前に連れて行くと、京一が何かを言う前に、自分でドアを開けて中に入った。すぐに水を流して出てきたから、無事に用を足すことは出来たらしい。
 京一は安堵する。いくら恋人同士だからといっても、さすがにそこまで手取り足取り教えてやるのには抵抗があった。

(でも風呂なら、一緒に入っても良いよな)
 だが、下心満載の京一の野望は、残念ながら果たされなかった。
バスルームの前に立っただけで、龍麻は意味を理解したらしく、無情にもドアをきっちりと閉められてしまったのだ。
「ひ……、ひーちゃん……」
 京一はがっくりと肩を落とす。龍麻がシャワーを浴びているらしい水音だけが空しく響いていた。


 けれど、いつまでも未練がましくドアの前で待っている訳にもいかない。以前の龍麻と同じだとしたら、少なくとも30分くらいは入っているだろう。
「メシの支度でもするか」
 とはいえ、京一に出来るのは、インスタントラーメンか、レトルトカレーくらいのものだが。とりあえず炊飯器に米をセットして、炊き上がるのを待つことにする。

 その間に、おぼつかない手つきでリビングの片付けをしたり、テーブルを拭いたり、食器を並べたりしているうちに、バスルームから龍麻が出てきた。
 置いておいた部屋着に着替えているから、意味は分かってくれたらしい。頭もちゃんと洗ったようで、短い黒髪から雫が落ちている。

「あー、ひーちゃん、ビショビショじゃねえか。髪拭いたか?」
 龍麻が無造作に肩に掛けていたタオルを奪って、京一はガシガシと濡れた髪を拭いてやる。それに龍麻は抵抗することもなく、くすぐったそうに首をすくめただけだ。


 以前には、湯上がりの龍麻に情欲を抱いたこともあった。
 白く滑らかな頬が上気して艶めかしく、少しのぼせたのか、とろんとした瞳も扇情的で、あの長く美しい黒髪に指を触れたいと、どれほど思ったことか。
 かつては龍麻を女の子に間違えたこともあったけれど、龍麻自身を知ってからは、どんなに美人でも男にしか見えなくなったというのに。

 京一は男に欲情している自分なんて、想像も出来なかったし、今でも信じられない気持ちではある。
 それでも龍麻ならば仕方がない、と納得してしまうだけの魅力が、かつての龍麻には存在していたのだ。
(今は何にも感じねェけどな……)

 京一に髪を拭いてもらいながら、無邪気に微笑む龍麻は、とても可愛いと思うけれど、それ以上の感情は湧いてこない。
 愛おしいと思う。大切に護りたいと思う。
 その気持ちは昔も今も全く変わりない。
 けれど、目の前に居る龍麻を、抱きたいとは欠片も思わなかった。
 この変化が良いことなのか、悪いことなのか、京一には分からない。
 ただ、ほんの少しの寂しさを感じるだけだった……。



 それからは特に何の問題もなく、ゆったりとした時間が過ぎていった。
 二人で京一が作った(というよりは温めた)カレーを食べ、ソファに並んで座って、ぼんやりとテレビを眺める。
 龍麻はどんな画面が映っても、さしたる反応はなく、顔は微笑んでいても、番組を楽しんでいる様子には見えなかった。

 京一はそんな龍麻の横顔をそっと見つめる。
 こうして、いつまでもぼんやりとしていられないことは分っている。考えなくてはならないことはたくさんある。
 例えば学校はどうするのか。

 龍麻も京一も出席日数はギリギリだ。担任のマリアは入院中だが、犬神に頼めば、補習くらいはしてもらえるだろう。
 本来の龍麻ならば、成績は優秀だったから、小テストかレポートくらいで許されるかもしれないけれど、今の龍麻ではそれもおぼつかない。
 京一自身も、卒業後は中国に行くつもりで、他には全く何も考えていなかったから、途方に暮れてしまうばかりだ。
 せめて無事に卒業くらいはしたいと思うが、それも叶うかどうか。


 それに経済的な問題もある。
 現実を考えれば、龍麻の両親に事情を説明して、引き取ってもらった方が良いのかもしれない。京一がずっと面倒を見るというのは不可能に近いだろう。
(あいつなら、どうするんだろうな……)
 京一はふと如月のことを思い出した。

 今の状態の龍麻を自分の事情に巻き込む訳にはいかないと、あっさりと龍麻と決別してしまった如月だが、あの心配性の彼が龍麻の身を案じていないはずもない。
 御門や村雨も、同様の理由で龍麻とは距離を置いてしまったけれど、京一が頼れば、きっと喜んで手を貸してくれるはずだ。

 如月も御門も村雨も、いざとなれば、龍麻を守れるだけの力も手段も持っている。何も持っていない頼りない京一と違って。
「オレなんて、この家の家賃すら、どうなってんのか知らねぇもんな」
 龍麻の一人くらいオレが養ってやる、と言いたいところだが、そう自信を持って言えるだけの根拠が京一にはない。

 如月のように自分の家や店がある訳でもない。御門のような特別な能力を持っている訳でもないし、村雨のような強運がある訳でもない。
 他の仲間たちのことを考えても、皆ちゃんと地に足の付いた生活をしている。何かしら誇れるものを持っている。
 明日をも知れぬ身なのは京一だけだ。


 京一は深い溜め息を落とす。これほどまでの無力感を抱いたのは初めてだった。
「オレはどうすりゃイイんだろうな、ひーちゃん」
 ぽつりとつぶやいた京一に、龍麻が愛らしく微笑む。名前を呼ばれたことに反応しただけなのだろうが、それだけで京一の心は癒されるようだった。

 考えてみれば、如月はこうして龍麻に微笑みかけてもらうことすら出来ないのだ。それを思えば、一緒に居ることを許されている自分は恵まれているのだろう。
 それに、こうしてウジウジ悩んでいても、また御門に怒られるだけだ。
 龍麻を護ることが出来る人間たちが、龍麻と距離を置くことを選び、残されたのは、何も持たない京一だけというのにも、きっと何か意味があるのだろう。

 いざとなれば仲間たちを頼ればいい。
 けれど、何もせずに諦めて降参するなんて、自分らしくない。
「よーし、やってやるぞー!!」
 いきなり立ち上がって叫び始めた京一を、龍麻が不思議そうに見つめているのだった……。



 さりとて今の京一に何が出来る訳でもなく、やっぱり二人してテレビをぼんやり眺めるだけになってしまうのだが。
 京一がお笑い芸人の下らない一発ギャグに笑いを誘われていると、隣の龍麻が、ふわ……と可愛らしいあくびをこぼした。
「ん? ひーちゃん、眠いのか。もうそんな時間か」

 時計を見れば、夜の10時だ。京一にはまだ寝る時間ではないが、龍麻はずっと入院していたから、この時間には眠っていただろう。
「えっと、パジャマはどこだっけな」
 京一ならば真冬でもパンツ一丁で構わないが、龍麻はそういう訳にはいかない。とにかくタンスを開けてみると、パジャマは幸いにもすぐに見つかった。几帳面にたたんであるのが龍麻らしい。

「ほら、ひーちゃん。これに着替えて寝ような」
 ソファに座ったままの龍麻にパジャマを渡すと、龍麻はこくりとうなずいて、いきなり服を脱ぎ始める。
「わっ、待て待て、ここじゃダメだって。部屋に行って着替えるんだよ」
 京一は慌てた。いくら今の龍麻には欲情しないといっても、目の前で裸になられたら、どうなるか分からない。

 風呂も一人で入れたのだから、着替えも出来るだろうと、京一は龍麻を強引に部屋に押し込めた。
「ふう……、前途多難だぜ」
 京一はぐったりとソファに腰を下ろす。


 龍麻が誘っているのではないことは分っている。無自覚だからこそ厄介なのだ。
 無垢な天使のような龍麻を、めちゃくちゃに啼かせてみたい。自分の欲望のままに征服したいと、いつか思ってしまうかもしれない。
 理性的な人間ではないと自覚しているから、たがが外れてしまうのが怖かった。
 今日はまだ耐えられる。けれど明日は、明後日は……?

 問題ばかりが山積みで、解決出来る気もしない。
 だが、こんなことを誰かに相談しても、我慢しろ、と一蹴されるのがオチだろう。
「参ったなぁ……」
 すっかり独り言が習慣になってしまった京一がつぶやいたところへ、部屋のドアを開けて龍麻が戻ってくる。無事にパジャマに着替えていたのでホッとした。

「よしよし、ちゃんと出来たな。えらいぞ、ひーちゃん」
 頭を撫でてやると、龍麻は嬉しそうな笑みをこぼす。
(そういや、ひーちゃんはこうされるの好きだったな)
 長かった髪をすっぱりと切ってしまってからは特に、京一に頭を撫でられるのを喜んでいたのを思い出す。うっとりと目を閉じて、いかにも幸福そうな笑みを浮かべていた。
 その時も今も、全く変わっていないように見えるけれど。


「ひーちゃんは、ひーちゃんだよな」
 京一は自分に言い聞かせるようにつぶやく。龍麻はきょとんとした顔をしているけれど、それは見ないふりをして。
「ひーちゃん、もう遅いから寝ような。また明日な」
 龍麻の肩を抱くようにしてベッドの側まで連れてゆくと、龍麻は大人しく布団の中に潜り込んだ。

「おやすみ、ひーちゃん」
 最後にもう一度、龍麻の艶やかな黒髪を軽く撫でて、部屋を出て行こうとした京一は、ぐいと引き留められる。何故かと見ると、服の裾を龍麻の手がぎゅっと握りしめていた。
「ん、どうした、ひーちゃん。一人じゃ怖いか?」
 京一の問いに、龍麻はたどたどしく答える。

「いっしょ……、寝る……」
「オレと一緒に寝るって? ダメだって。オレは向こうにベッドあるから」
 京一が断っても、龍麻は服を離そうとしない。
「……参ったな。病院では一人で寝てたろ?」
「んん……」
 龍麻は首をふるふると横に振った。どうしても一緒に寝たいらしい。

「そうは言ってもな。第一、このベッドじゃ狭いしよ」
 京一もなるべくなら龍麻の願いを叶えてやりたい所だが、こんな狭いベッドで身体を寄せ合っていたら、妙な気分にならないとも限らない。おそらく大丈夫だとしても、危ない橋は渡りたくなかった。
 すると龍麻は、やはりたどたどしく、けれどはっきりした口調で答える。
「約束……した」
「え……?」
「きょーち、約束」


 その言葉に京一は思い出す。
 決戦の前日、京一は龍麻を抱かなかった。龍麻にどれほど懇願されても。あからさまに誘惑されても拒み続けた。
 今夜が最期の夜にはならないのだ、と。
 これから先、明日も明後日も、1年後も100年後も、ずっとずっと二人一緒に居るのだから、と。

 戦いの前に怯えて、不安がって、京一に抱かれることで、全てを忘れようとしていた龍麻に、京一は逃げることを許さなかった。
 それは龍麻にとっては残酷な仕打ちだったかもしれない。もちろん京一も平気だったはずもなく。
 それでも、こうすることが龍麻のためにも良いのだと信じて、京一は龍麻を抱かなかった。
 その時、龍麻は誓ってくれた。京一の元に必ず戻ってくると、約束してくれた。確かに龍麻はそう言ったのだ。

「ひーちゃん、もしかして思い出したのか……?」
 京一の言葉に、龍麻は小首を傾げている。その仕草からは、記憶が戻っているようには見えない。
 だが、ほんの欠片ほどでも、龍麻の想いが残っているのなら。
 きっと希望はある。京一は確信した。


「そうだな、ひーちゃん。約束したもんな」
 京一が龍麻の隣に潜り込むと、ようやく龍麻も納得した様子で、京一の服を離した。
 それから、ほんの数分もしないうちに、可愛らしい寝息を立てて眠ってしまう。取り残された京一は困惑するばかりだ。

(だからって抱けねェよな……)
 いくら『約束』したとはいえ、この状態の龍麻を抱くことなど出来ないのも事実だ。龍麻が大人しく寝てくれて、助かったのかもしれなかった。
 京一は細心の注意を払って、龍麻を起こさないように、ベッドから抜け出る。名残を惜しんで、龍麻の頬に軽いキスを落としてきたけれど、このくらいは許して欲しかった。

「……おやすみ、龍麻」
 電気を消して、京一はそっと龍麻の部屋を後にするのだった……。


               つづく



 


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2013/05/13