「Stand By Me」 その3


(3)


「京一、京一、京一ッ!!」

ひーちゃんの声が聞こえた。
オレを呼ぶ声…、絶対に気のせいじゃない。
さあ、行けよ、蓬莱寺京一。
呼ばれたら、一目散に飼い主の元に戻る。
それが、忠誠の証ってヤツだろ…?


「ひーちゃんッ!」

いきなり京一が戻ってきた。
まさかオレの声が聞こえたとか…?
そんな訳ねえよな。
どんなに大声を張り上げたって、外までは聞こえない。
オレは京一が出て行ったのを、
この目ではっきりと見届けたんだから。
それともやっぱり、これが奇跡ってヤツなのかな…。


「きょ…うい…ち」

ひーちゃんの声が頼りなげにオレを呼ぶ。
やっぱり気のせいじゃなかった。
ずっと、ずっとひーちゃんは、オレを呼んでくれていた。
オレを待ってくれていた。
オレを必要としてくれていた…。


「大丈夫か、ひーちゃん」

当たり前だ。大丈夫に決まってるだろ。
そもそも大丈夫かと聞かれて、
大丈夫じゃないなんて答えるヤツいるか。
そう言い返してやりたいのに、何で声が出ないんだ。
カスみたいに弱々しい声しか出なくて、情けない。
本当は、ちゃんと京一の名を呼んでやりたいのに…。


「やっぱ熱があったんじゃねえか」

「気付い…てた…の…か?」

「当たり前だろ。
オレは誰よりもひーちゃんのことを
知ってるんだからな」

「嘘…つけ…」

「…んだよ、それ。本当だって。
ひーちゃん、熱出ているときくらい、
もうちょっと素直になれよ」

「死んで…も…嫌だ」


何だと、京一のヤツ。バカ言うな。
熱があるからこそ、うかつなことを言えないんだろ。
こんな時は心にも無いことを言っちまうんだよ。
普段は、全く考えてもいないことが、
いきなり湧いてきたりするんだよ。
それこそが本心だ、なんて思いたくはないけどな。


ああ、もう。
ひーちゃんの意地っ張り。
どうしてこんなに素直じゃないんだろうな。
…でも、オレは知ってるんだぜ?
ひーちゃんって、自分で思っているよりもずっと、
気持ちが顔に出ちまうんだってこと。
嘘つけないヤツなんだよ、ホント。


「ひーちゃん、オレって、バカだよな?」

「…バカだ…な」

「だからさ、約束…守れねえよ」

「…なに…?」

「出入り禁止ってヤツ。
オレ、絶対に守れねえから」

「…で……」


ん?ひーちゃんの声、聞き取りにくかったな。
でもきっと『なんで?』って言ったんだろな。
そんなの決まってる。
オレの答えは、決まってるんだ。
多分、最初から。
オレたちが初めて出会ったあの日から。
…なんてな。


約束…?
何言ってるんだ、こいつは。
いつオレたちが『約束』なんかしたよ。
オレが勝手にお前と別れるって言っただけだろ。
しかも約束守れなくて悪い、なんて思ってるんだろな。
本当にバカだよ、こいつ。


「だってよ、ひーちゃん。
オレ、バカだって自分でも分かってるけど、
これはきっと一生、治んねえと思うから。
そしたら永遠にこの家に出入り禁止になっちまうだろ。
そんなのオレ耐えられねえし。
ひーちゃんのこと、好きだから。
ずっとひーちゃんのそばにいたいんだよ。
それに今回はちょっと弾みっつーか、
勢いでこうなっちまったけど、
もっとちゃんとひーちゃんと付き合いたいしな。
ひーちゃんは嫌がるかも知れねえけど、
オレはひーちゃんとデートしたりキスしたり、
それ以上のこともたくさんしたいからさ」

「この、バカ京一ッ!!!」

「わ、ひーちゃん、いきなり大声出すなよ。大丈夫か?」

「お前…、ものすご…く大事な…ことを、
話の…ついでみたいに…言うな…ッ」

「…ひーちゃん、マジで大丈夫か?
無理して怒鳴るからだろ。
全然、声出てねえじゃねぇか」

「…ても…るだ…ろ…」

「ん?何だ、ひーちゃん?」

「大声…出さなく…ても、
聞こえ…るだろ、お前…には」


奇跡だか何だか知らないが、オレの声が届いただろ?
閉ざされたドアの向こう。
届く筈のない声が、届いたんだろ…?
だから、オレの所に戻ってきてくれたんだろ…?


「ああ。聞こえたよ、ひーちゃんの声。
だってよ、オレって犬だからさ」


何言ってんだ、いきなりこいつは。
やっぱりバカだったか、バカ。


「ほら、あの、笛あるだろ、笛。
吹いても音がしないけど、
犬はぴゅーって飛んでくるヤツ。
アレと同じでさ。
オレにもひーちゃんの声が
聞こえたんだよな、きっと」

「…犬笛…?」

「そ。こう、何てーのかな。
オレとひーちゃんの心の絆ってヤツ?」

「…やっぱ、お前…バカ」

「何でだよ!」

「犬笛ってのは…音は出て…んだよ。
人間には…聞こえ…ないだけ。
犬とは…可聴領域が…違うか…ら」


かちょーりょーいき…?
全然、これっぽっちも意味分からねえよ。
りょーいきってのは範囲のことだよな?
かちょーって何だ?課長か?
んな訳ないよな。
ああ、やっぱりオレってバカなんだな…。


ああ、やっぱり京一ってバカだよな…。
オレは熱があって苦しいのに、
犬笛の説明までさせるなよ。
しかも説明してやっても、
意味分かってない顔してるしな。
でも別に、そんなところも嫌いじゃないけど。
…笑えるし。


「つまり…お前は…犬並みって…こと…か?」

「じゃなくて、絆ってことだよ!」

「んなの…あるか…よ」

「あるに決まってんだろ!」

「…ない」

「ある!あるったらある!」

「ないったらない!」


げほげほげほ。
う、苦しい。喉が痛い。
オレは何をムキになって怒鳴ってんだ。
絆だろうと、奇跡だろうと、犬並みだろうと。
そんなことはどうでもいい。
こいつが犬笛の話なんか始めるから、
ペース狂っちまったんだよ。
まだ、肝心の話…してないだろ。


「お前、オレの…こと…何て言った…?」

「え?」

「さっき、オレのこと…、
何て…言ったんだ、って聞いて…んだ」

「…だから、犬だろ」

「犬の話じゃねえよッ!」


なんなんだよ、こいつは。
いい加減にしろ。
自分で言ったことくらい覚えとけ。
それとも、鳥か。鳥アタマか。
3歩あるいたら忘れちまうのか。
バカにも程がある。
ウルトラバカ。超バカ。激バカ。無限大バカ。


え?何でひーちゃん、怒ってんだ?
さっきもいきなり怒鳴るしよ。
そういや、なんて言ってたっけ?
『大事なことをついでみたいに言うな』だったか?
お?オレちゃんと覚えてるな。スゴくねえ?
…でもその『大事なこと』ってのが分からないんですけど。
教えてください、龍麻様。


「超絶ウルトラスーパー無限大バカ」

「…そりゃねえよ。ひーちゃん。
しかも息切らしてねぇし」

「息切れなんかさせてる場合じゃないからな」

「ンなこと言っても、声、ヒドイぜ?
ホントはのど痛てぇんだろ?」 

「お前はバカだから。
オレが言わなきゃ分からないだろ」

「え?何を…?」



「お前が好きだ、京一」



「ひーちゃん…」

「お前は…?」

「オレだって、ひーちゃんのこと好きだよ。
当たり前だろ!
…オレ、さっきもそう言ったよな?」

「それが悪いんだよ。
話の勢いの中で言いやがって。
ズルイだろ、それは」

「え…?オレ、そんなつもりじゃ」

「分かってるよ。お前はバカだから」


「…ごめん」

「何で謝る」

「オレがバカだから、
ひーちゃんをいっぱい傷つけた」

「オレもバカだからな。
お前をいっぱい傷つけた。
お互い様だろ」

「でも最初に間違っちまったのはオレだし」

「後悔してる、なんて言うんじゃないだろうな」

「する訳ねえだろ。
絶対にこれっぽっちもしてねえ」

「じゃあ、ずっとオレのそばにいろ。
責任取れよ」

「もちろんだって。
ひーちゃんが嫌だって言っても、
ずーっと、ひーちゃんのそばにいるからな。
離れねえよ」

「犬だからな」

「そ、犬だから」




たった一人のあなたが、そばにいてくれるなら。

…それだけで、幸せだから。

だから、ずっとそばにいて。

『Stand By Me…』



                       おわり

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ここまで読んで下さってありがとうございます。m(_ _)m

今回はものすごく読みづらかったと思います。
内容はもちろんですが、レイアウト的にね。
右に行ったり、左に行ったり、真ん中に…(苦笑)。
その分、幅を広くしているので、横にスクロールしちゃっているかも。
小さい画面で見ている方には申し訳ないです。
しかも、そんなに凝ったことをした割に、
それだけの効果が出たかどうか、謎。

全編がモノローグなので、
誰の言葉か分かりやすくしたかったのですが、
かえって分かりづらかったですか?(笑)。

内容については…それほど書くこともないです。
これはとにかく「龍麻=私」で、
私の悩みや迷いや憤りや、そういったものが如実に出ちゃいました。
文章を書くのって怖いねぇ。
こんなのを他人様にお見せして良いものか。
お目汚しでございました(苦笑)。

また思いつきでこんなのを書くかもしれません。
その時はどうぞよろしくお願いします。


 


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