【えせほし─似非星─ 】 kyo-ko

『会えない時間』

(3)


 見慣れた玄関の前に立つと、ようやく戻ってきたという感慨も湧いて来る。それにしても、たかが二週間ほど留守にしただけで、これほどまでに懐かしいような、息苦しいような想いに駆られるものか、と仙石は自分が可笑しくなった。
 護衛艦乗りだった頃には、ずいぶんと家を開けたものだが、こんなに家や家族が恋しかったことはなかったような気がする。それだけ『如月 行』に溺れている証拠かもしれない。

「仙石 行だろ」
 仙石は自分の述懐を自分で訂正する。
 未だに、行が『仙石』であることに慣れていないのだ。
 ずっと別の名を便宜上名乗っていた行が、『行』という本来の名を取り戻し、その上に自分の家族の証である『仙石』を名乗るというのは、喜ばしいことではあるけれど、不思議なことでもあった。

 行もまた、『仙石』と名乗る時は、どこか恥ずかしそうに、それでいて嬉しそうにしているから、きっと同じ気持ちなのだろう。

「俺の行なんだよな…」
 仙石は一人つぶやく。
 自宅のドアの前でいったい何をやっているのかと、他人が見たら呆れるだろうか。仙石としては、ただちょっと落ち着きたかっただけなのだが。あまりにも行を求める想いが強すぎて、いきなり顔を合わせるのはためらわれたのだ。


 それでもいつまでもこうしている訳にもいくまい。
 仙石は呼び鈴を鳴らした。もちろん家の鍵は持っているが、行は一人で家にいる時は必ずドアチェーンも掛けている。家から一歩外に出た仙石は、戻ってきたらチャイムを鳴らすように習慣付けられていた。
 普段なら、ここでインターフォンの向こうからぶっきらぼうな声が返ってくるのだが、今日はいきなりドアが開く。どれほど行が待っていてくれたのかが分かり、仙石は胸が熱くなった。

「おかえり」
 そう言う行の顔には、微笑みの一つすら存在していない。
 しかし、仙石にはそれで十分だった。きっと今の行に犬のシッポが付いていたら、ちぎれそうなほどパタパタと振っていただろう。その幻が見えるような気すらしたのだ。

「おう。ただいま帰ったぞ」
「遅いんだよ」
「そんなに俺に会いたかったのか?」
「うるせえ」
 いつものようにつれない口調でも、今日はそれが可愛くて仕方がなかった。

 しっかりとドアを閉めたことを確認すると、仙石はおもむろに行をきつく抱きしめる。
「…仙石さん?」
 …そろそろ名前で呼んでくれ、と思いながらも、行のおとがいに指を掛けて、何か言いたげな唇をふさいだ。二週間ぶりに味わう行の唇は、記憶にあるものよりもずっと甘くやわらかいようだった。


 歯列を割って舌を差し入れると、行もおずおずと舌先を伸ばして応えてくる。それを強く吸い、音が響くほど激しく絡め合うと、腕の中の行の身体がびくんと震えた。
「ん…、ふぅ…っ、んんっつ」
 とろけそうな吐息をつきながら、行が逃れようと身をよじるが、仙石は離してやるつもりはなかった。寝室でしかしたことのないような激しいキスに、行が戸惑っているのも分かるけれど、己の昂ぶりがもう抑えきれなかった。

 ここが玄関であることも忘れ、仙石は行の身体に指を這わせる。今でもトレーニングを欠かさない行のしなやかな背中から、引きしまった腰へ、そしてその下まで両手でまさぐるようにすると、今度は行の方から仙石にしがみついてきた。
 正確には、立っていられなくなった、というべきか。仙石がしっかり支えてやると、行は全身を預けてくるので、そのまま床に座らせた。

 長いキスからようやく解放された行の唇からは、荒い吐息と共に、小さなつぶやきが洩れる。
「…何する…、…んんっ」
 もちろん仙石はその抗議の言葉を最後まで聞くことなく、また唇をふさいだ。それでもすぐに離すと、行は恨めしげな目を向けてくるが、仙石は構わず行の白いTシャツをたくしあげる。すでに胸の突起は硬く尖っていて、軽く舌を這わせただけで、行の全身が跳ね上がった。

「…んぁっつ」
 思った以上に大きな声が出てしまい恥らったのか、行は慌てて右手で口を押さえる。必死に声を堪える姿も可愛くて、仙石はますます強く突起を吸い上げた。
「ふ…っ、くぅん…っ」
 行の漏らす切ない喘ぎと、仙石の舌が鳴らすぴちゃぴちゃという音だけが、しばらく玄関先に漂いつづける。

 しかし仙石の指が行のジーンズのファスナーに掛かった瞬間、行がいきなり逃げるように背を向けた。それでも仙石は行の腰を後ろから抱きとめ、決して離さない。それどころか、そのままの態勢で、行の服を脱がせにかかった。


 行が、あのまま座っていた方が服を脱がしにくかったのかもしれない、と後悔している間に、下半身がすっかり仙石の前にさらされてしまった。
「いい加減に…っ」
「すまん。もう我慢出来ねえんだ」
 掠れた声で、苦しげにそう言われてしまっては、行もそれ以上は抵抗出来なくなってしまう。廊下で四つん這いになって、下半身をむき出しにされて、あまりにも恥ずかしい格好であることも、今は考えないことにした。

 いや、考える余裕などなかった。
 容赦なく広げられた双丘の中央に、仙石の熱い舌が差し込まれる。固い蕾に執拗なまでに与えれる刺激に、行は声を耐えることが精一杯だった。頭の中が真っ白で、この荒々しい快感に引きずられてしまうことを怖れながらも、いつしか波に呑まれていった。

「んん…っ、…くぅ………ッツ」
 後ろだけの刺激で達してしまった行に、仙石が意地悪くささやく。
「ずいぶん早いな。溜まってたのか?」
 あけすけな言葉に、行は頬を染めながらも、ボソリとつぶやいた。
「当たり前だろ。あんたがいなかったんだから…」

「一人で慰めなかったのか?ここを…」
「あ…っつ」
 どろりと雫が滴っている先端を、武骨な手のひらで包みこまれて、行は堪らず吐息を付いた。しかもそれがすぐに硬さを取り戻してしまったことが、余計に羞恥をつのらせる。
「してない…、そんなこと」

 行はとっさに嘘を吐いた。
 仙石の不在に耐え切れず、たった一度だけ自分で慰めてしまったことがある。それでも本物の快感とは比べ物にならなかった。本当の仙石の指とはあまりに違っていた。
 いつしか仙石の指が後孔にも差し込まれていた。前と後ろから、絶え間なく刺激を与えられ、行はそれにあられもなく腰を振って応える。このままではまた達してしまいそうだった。

「あ…っ、はぁ……、んっ」
 それを仙石も感じたのか、後孔の指を引き抜き、硬く張りつめた己自身を代わりにあてがう。その指とは違う感触に行も気付いて、ただ次に来るものを待ち受けた。


 …欲しい、と思った。こんなことは初めてだった。

 身体が快感を追っているだけなのか、それとも心が愛する人に求められたいと望んでいるのか、自分でも良く分からなかったけれど、会えなかった時間が想いをつのらせたことだけは確かだった。

「行くぞ…」
 仙石はせっぱ詰まった声で言いながらも、なかなか奥深くへは進んで来てくれない。無視は出来ないけれど、我を忘れるほどでもない微妙な刺激を与えられるだけでは、行の飢えは満たされなかった。

「もぅ…やぁ……っ」
 仙石が欲しい。もっと激しく貫いて欲しい。めちゃくちゃにして欲しい。
 そう思うのに、それをどう伝えれば良いのか分からない。瞳を潤ませて、ひたすら嫌々をするように首を振ることだけしか出来ず、行は唇をきつく噛んだ。

「っふ…う……くっ」
 声も出せなくて、言葉にも出来なくて。
 それでも唇に当たる歯の感触や痛みが、自分の意識を留めていてくれるようで、必死に噛みしめていたら、ふいに仙石の左手がそこに添えられた。


「…馬鹿だな、血がにじんでるぞ。そんなに我慢することないだろ。無理するな」
 そっといたわるように撫でてくれる仙石の指すらもいとおしくて、行はそれをおずおずと唇に含んだ。ちゅくちゅくと吸っていると、仙石は空いている右腕で、行の身体をきつく抱きしめる。
 刺さったままの仙石自身が、その勢いで行の胎内に深く埋め込まれ、行はつま先まで激しく全身をふるわせた。

「んあ…ッツ」
「キツいか? つらいなら、そう言えよ…」
 仙石のささやきが耳にやわらかく届くけれど、望んでいたものを与えられた行は、ただ黙ってかぶりを振った。
 そして、どうにか一言だけつぶやく。

「……もっと…」
 そう言った瞬間、胎内の仙石自身がまた硬度を増して、行の最奥を突き上げる。
「イイのか…?」
 いつにない激しさで腰を強く打ちつけてくる仙石に、行はやはりうなずくだけだ。

「行…、こ…う…っ」
「……仙石…さ…っ」
 そして、二人同時に達するのだった…。


 我に返った行は、人が通るかもしれない玄関先で、かなり激しい行為をしてしまったことに、ひどく羞恥心を覚えたけれど、そうして恥らっている姿がますます仙石をあおってしまったのか、ぐったりする身体をいきなり抱き上げられた。
 玄関脇左の扉を開けると、都合の良いことに、そこが寝室なのである。10歩もないくらいの距離だ。結果として当然の如くに、二人はベッドに直行し、第二ラウンドが始まった。

 いつの間にか、お互いに一糸まとわぬ姿になって、熱を帯びた身体を重ねていると、行はそれだけで幸せを感じた。
 仙石に当然のように愛されて、自分もまた当然のように愛を返す。
 それこそが『結婚』なのだ、と改めて気が付いて、この幸せを与えてくれた仙石に、ますます感謝したくなった。
 降りしきる雨のような愛撫を全身に受けながら、行はそっとつぶやいた。

「ありがとう…、仙石さん」
 しかしその言葉も、いつしか行自身の放つ甘い吐息にまぎれてしまうのだった…。


           おわり

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ここまで読んで下さってありがとうございましたm(_ _)m

どうでしょう?(苦笑)。
エロは苦手なのですが、やっぱり新婚さんだしね。
そう銘打つ以上は、イチャイチャさせてあげないと。
自分なりには頑張ったつもりです。

それから、この話を本にすることに決めました。
もちろんこれだけじゃ足りないので、
たくさん書き足しております。
再録部分はほとんど無いと言ってもいいくらいです。

でもエロシーンはあんまり加筆ないけど(爆)。
ほのぼのラブラブを目指して書きますので、
出来上がりましたら、その時はどうぞよろしく。
詳しいことはまたいずれ。
ちゃんと「OFFLINE」コーナーで告知しますので。

2005.09.05

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