『もう一つの名』 |
画号を『克美』とすることは、ずっと前から決めていた。 それは目の前で失われていった小さな命の名。 もしかしたら助けることができたかも知れない人の名だ。 無邪気で屈託のない笑顔。 自分を疑うことなく、どこへ行くのでも後をくっついてきた、少年とも言っていいほどの可愛らしい同僚は、行に嫌でもあの面影を思いださせた。 自分がこの手で殺してしまった白い仔犬を…。 あの仔犬を殺すのに、ためらいは覚えなかった。 しかし。 もしも『彼』が自分と敵対する側に回っていたとしたら、任務の妨げになるとしたら、躊躇なく殺せていただろうか。 あんな風に見つめられ、慕われても尚、裏切ることが出来ただろうか…。 その答えを探すかのように、『克美』はカンバスに向かい続ける。 何を描くかは決まっていない。 ただ自分の内から溢れ出るものを形にするだけだ。 そして。 描き出された男が見つめるその先に、行の求める答えもそこに存在しているような気がした。 いつの日か、この絵を見て男が自分を訪ねてくるかもしれないその時に、きっと答えは出るのだろう。 言葉にも、絵にもならない、まだ形のない自分の想いもまた…。 おわり |
ここまで読んで下さってありがとうございましたm(_
_)m
どうも行視点が多いですね。 しかもなんだか乙女じゃないですか?(苦笑)。 こんなの行じゃないー、と思われたらスミマセン。 仙石さん視点の話も書きます。そのうちに。 2005.02.02 |