【えせほし─似非星─ 】 kyo-ko

『抱かれたい?』



 ベッドの中で、二人でイチャイチャした後は、仙石の腕の中でそっと眠りにつくのが、いつもの行の習慣だった。そして仙石は行のあどけない寝顔を見つめながら、夢の中へ落ちていくのが、密かな楽しみなのである。
 が、今夜の行は、目をぱっちりと開けたまま、なにやら深刻な表情を浮かべていて、眠る気配は微塵も感じられなかった。

「どうした、眠れねえのか?」
 行を驚かせないように耳元で低い声でささやくと、行は仙石の腕の中に抱かれたまま、顔をほんの少し上げて、小さく首を振った。
「…いや。あんたの鼓動の音、聞いてた」
「俺の?」

 行の長めの髪を指に絡めて、その感触を味わいながら、仙石は尋ねる。
 行は黙ってうなずいた。
「なんか、安心するから」
「赤ん坊も人間の心臓の音を聞くと安心するらしいな。それと同じだろ」
「そうかな…」
 行は首をかしげる。


「やっぱり…、オレだけなのかな」
 何やら悩んでいる様子である。
「ん?」
 仙石が尋ねると、行はいきなり仙石の腕を振りほどく。そして、今度は逆に仙石の身体を抱きしめるように腕を絡めてきた。

 いったい何が起こっているのか分からず、仙石は戸惑ったが、自分の顔がぎゅうぎゅう行の胸に押し付けられて、息苦しくて死にそうだった。
 そこへ行が尋ねてくる。
「気持ち良いか?」
「…苦しい」

 仙石は正直な気持ちを訴えた。このままでは窒息してしまいそうだった。どうやら行は力加減が分からないらしく、ひたすら『ぎゅうぎゅう』なのだ。
 すると、行は目に見えてがっかりした顔になる。
「そうか…」


 それでも腕をゆるめてくれたので、仙石はどうにか逃れることが出来た。しかし、行がいきなり何を思って、そんなことしたのかも分からないし、今はがっかりしている理由も分からない。
「何でいきなり落ち込んでるんだ」
「オレ、変じゃないか?」
「何が?」
 言葉が足らないのは、いつまで経っても直らない行の癖で、仙石は苦笑するしかなかった。

 すると、行はやけに真剣なまなざしで、いかにも重大な秘密を打ち明けるような口調でつぶやく。
「だって…、オレは男なのに、あんたの腕の中に抱かれていると安心するんだ…」
 かすかに頬を染めて、そんなことを言われたら、問答無用で抱きしめたくなってしまうが、行がどうやら本気で悩んでいるらしいことも伝わってくる。


「それは…、つまり男の大半が巨乳好きなのと同じだろ」
「きょにゅう?」
 単語の意味がパッと分からなかったらしい。行は可愛らしい仕草で首をかしげる。堪らない。
「豊満なバストってことだな」
「なるほど。…で、それがどうした」

「だからな、豊かな胸に抱かれたいと思う男が多いってことだ。結局は母親のイメージなんだろうけどな」
 すると行は、ますます奇妙な顔になった。
「オレがあんたに母親のイメージを重ねているとでも?」
「そうじゃねえよ。抱かれると安心するって話だろ。だからお前だけが特殊じゃないってのを俺は言いたくてだな」

「つまり誰もがそういう願望を持っているということか」
「そういうことだ」
 行はようやく納得したように深くうなずく。が、いきなり眉根を寄せて、不機嫌そうな拗ねた表情を浮かべる。それはそれで可愛らしいと思ってしまう仙石はもう末期的だろう。


「ん?どうしたよ」
 仙石はなだめるように、行の眉間のしわを指でつついてやると、行はぼそりとつぶやいた。
「…あんたもか?」
 どうしてこいつは主語述語目的語がめちゃくちゃなのだろう、と思いながらも、この程度で腹を立てていたら、如月行とは付き合えない。仙石はまた辛抱強く問いかける。

「何がだ?」
 すると行はますます声を小さくしながら、答えた。
「…あんたもやっぱり『きょにゅう』が好きなのか?」
「いや、そうでもないな。俺はどちらかというと、手のひらに収まるくらいの方が…、って何を言わせるんだ」

「あんたが勝手にしゃべったんだろ」
「…ああ、まぁな。で?…だからどうした?」
 慌てて話題を変えながら、仙石は尋ねる。行が拗ねている理由はやはり分からない。すると行は仙石の腕の中から逃げ出して、ふいと背中を向けた。


「…どうせオレには胸がないからな」
 行のつぶやきを聞いて、仙石の方がよほど驚いた。まさかそんなことを行が気にしているとは思っていなかったのだ。ますます可愛くて可愛くて、いとおしさがつのる。
 さりとて、行にめろめろの仙石は、行が何を言っても何をやっても可愛いと思うのだけれど。

 こちらに向けられた後ろ頭をくしゃりと撫でて、仙石はそのまま行の身体を抱きしめた。
 そして耳元で甘くささやく。
「俺は『如月行』が好きなんだ。それ以外に何か必要なのか?」
 すると、行の髪の下に隠れた小さな耳が、ぽっと赤く染まる。仙石はそっと微笑むと、その耳を軽く噛んだ。

「…んんっ」
 不意打ちで驚いたのだろう。普段はめったにそんな声を上げない行が、可愛らしく喘ぐ。
 それに気を良くした仙石は、ますます行為をエスカレートさせていき、行に思いっきり殴られてしまうのだった…。


          おわり


ここまで読んで下さってありがとうございましたm(_ _)m

うーん、内容が無い(苦笑)。
この話のポイントは、行が仙石さんを抱きしめる、
という所でして。

それを最初は行視点で書いていたんですけど、
どうにも上手く行かないので、
仙石視点にしたらすっきり出来ました。

仙石視点にすると、
ひたすら「行は可愛い」を書いていれば良いので、
すごく楽なんです。

今は本の原稿が上がったことで、気が抜けちゃって。
あんまり込み入った話が書けません。
こういう話は脊髄反射の自動筆記で書けるので、
(なんかアブナイ人みたいだけど…苦笑)
ずっとこんなのだけ書いていたら気楽だな。

2005.09.12

戻る     HOME