【えせほし─似非星─ 】 kyo-ko

『あともう少しだけおなじ夢を見たいな』


「ん……」
 行はふいに目を覚ました。
 まだ辺りは暗いので、いつもならば起きるような時間ではない。それでなくとも低血圧で朝は弱いのだから。
 だが、目が覚めた理由は分かっていた。

 夢を見たのだ。
 もうどんな内容だったかは、おぼろげにしか思い出せないけれど、楽しい夢ではなかったことは確かだ。
 行が隣に目を向けると、そこにはいかにも平和そうな顔で眠っている仙石の姿がある。こんな時には一人じゃなくて良かったと思う。

 いや、そうではないのか。
 一人で眠っている時は、夢など見る余裕もなかった。眠りに就いたと思ったら、すぐに朝がやって来たし、それが当たり前だと思っていた。
 そもそも生きていく上で必要だから、食事をするのと同じように、睡眠を取っていただけのことだ。
 仙石と夜を共にするようになってから、誰かのぬくもりに包まれて眠る喜びや、目が覚めて好きな人が隣にいてくれる幸福を、初めて知った行だった。


 そして、それと同時に、何故か悪夢も訪れるようになった。
 突然、仙石が自分の元から去っていく夢。
『他に好きな人が出来た』『再婚することになった』『もうお前とはやっていけない』『男同士なんて不毛だろう』
 理由はさまざまだったが、いつも最後には仙石がいなくなる。

 仙石が事故や病気で死んでしまうこともあるし、自分が仙石を殺してしまう夢をみることもある。行がどんなに嘆いても結果は同じだ。
 ……仙石を失いたくない、ずっとこのままでいたい。
 そう強く望めば望むほど、不安もまた強くなり、それが夢となって現れてくるのだろう。


「でも……、夢は夢だ」
 行は自分に言い聞かせるように、つぶやいた。
 せめて今度は良い夢を見られるようにと祈りながら、そっと目を閉じる。
 するとそこへ、仙石の低いささやきが聞こえてきた。
「行……、愛してるよ」
「え? 仙石さん……?」

 驚いた行がそちらを向くと、仙石はやはり気持ち良さそうに眠っていた。他愛もない寝言だったのだろう。
 けれど、仙石の寝顔を見れば、どんなに幸せな夢を見ているのか、手に取るように分かった。
 その夢の中にはもちろん自分も存在しているに違いない。

「……仙石さん」
 行は仙石の肩にそっと触れた。
 こうしていると、仙石が見ている幸福な夢を、自分も見られるのではないかと思った。触れている指先から、仙石の愛情が伝わってくるようだった。
 そして行はそのままゆっくりと眠りに落ちていくのだった……。



               おわり

ここまで読んで下さってありがとうございましたm(_ _)m

『たくさんの好きと、たくさんの愛を、お前に』
対の話になっています。
と言っても、私がそう思っているだけで、
同時に読んでも、そうは思わないかもしれませんが(苦笑)。
結局、起きた場面ってだけだしね。

私は何故か、朝起きた場面を書くことが多いです。
自分ではそれほど意識していないし、
『寝起き』が好き!という訳でも無いんだけど(笑)、
気が付いたら、たくさん書いています。
てことは、好きなんだな、きっと。

読者様としては、起きた後よりも、
寝る前の攻防の方を読みたいのでしょうね。
もちろん私もそちらを書きたい気持ちはありますが。

……もうネタ切れだよ!
そんなにバリエーション付けられないって。
それともワンパターンでも良いのかな。
こんなシチュのエロが見たいとか、
アンケートでも取ってみたい今日この頃。

2009.03.06

戻る     HOME