【えせほし─似非星─ 】 kyo-ko

『消えない傷』



 角松の服を脱がせ、甲斐甲斐しく包帯を取り替える如月を見つめ、角松はそっと尋ねる。
「なあ…、如月」
「ん…?」

 応えながらも、如月は顔を上げずに、作業を続けていく。
 その白い指先がまるで舞っているかのように美しく動くことに、角松は感心させられた。いや、単純に魅せられたと言っても良いだろう。
 その指によって、角松の右胸に巻かれた包帯が少しずつ解かれる。

 全てが解けて、露わになってしまう前に、角松は言葉を継いだ。あの傷を見たら、言えなくなりそうだった。
「あんたがそこまでしなくても良いんだぞ。任務の範囲じゃないだろう、これは」


 すると如月は手を止めて、つと角松の方に顔を上げる。長めの前髪の下から、深い湖のような黒い瞳がじっとこちらを見つめた。
 そして一言。
「…迷惑か?」

 それは決して傷ついたのではなく、ただ確認しただけ、という口調に聞こえたが、実際のところは分からない。角松は慌てて言葉を付け加える。
「違う。ただあんたが責任を感じているんだったら、そんな必要はない、と言いたいだけだ」

「それなら気にすることはない。私がしたいから、やっているだけだ。あんたは大人しく怪我を治すことだけを考えろ」
「…ああ、そうしよう」
 責任を感じていないはずもないが、如月は淡々と告げるから、角松もそれ以上は言えなくなった。


 そして、また如月は作業に戻り、包帯は全て解かれ、モーゼルの生々しい傷痕が露わになる。それを目にした角松は大きな溜め息をついた。
「痛むのか?」
「いや、その傷を見るたびに、気に喰わねえ奴のことを思い出して、気分が悪くなるだけだ」

 愚痴っぽくつぶやく角松に、如月はくすりと小さく笑った。
「それならこうすれば良い」
 そう言うが早いか、如月の唇がそっと右胸の傷に近づき、羽のように触れた。
「痛いか?」
 そのまま顔を上げて尋ねる如月に、角松は黙って首を横に振る。

 と、如月の唇がまた傷に触れる。今度は先刻よりも強く。自分の痕跡を残そうとするかのように。
「…如月」
 思わず角松がつぶやくと、如月は目だけをこちらに向けた。


 ふいに、その目がいたずらっぽく笑い、桜色の唇から艶めかしく覗いた舌をつう…っ、と這わせる。それはまるで愛撫のようだった。
 堪らなくなり、深い吐息を付く角松に、如月はやはり微笑みながら、甘くささやく。
「これで次からは、私のことを思い出すだろう?」

 …思い出すどころか、忘れられなくなりそうだ。

 角松は心の中でそっとつぶやく。今夜はおそらく眠れまい。
 そんなことは知らずに、美しくも無邪気な笑みを浮かべる如月を、角松は恨めしく見つめるのだった…。

ここまで読んで下さってありがとうございましたm(_ _)m

「傷」というアイテムはそそられますよね。
しかもその傷をつけたのは別の人…(笑)。
ホント、角松氏と草加はエロい設定だよ。

私、実は草加も意外と好きなので、
如月さんが存在しなかったら、松草とか草松とか、
普通にやっていたかと思われ…(爆)。
いや、そもそも如月さんがいなかったら、
サイトを開設してはいないかな。

如月さんと草加は仲が悪そう。
というか、絶対に気が合わないだろうね。
如月さんの方が勝手に草加をライバル視していたら可愛いな。

ところで角松氏の傷、
私はてっきり「肩」を貫通だと思っていたのですが、
読み返したら「右胸郭」で「背中で止まっている」でした。
分からないけど、それってすごいケガなんじゃ…。
よく死ななかったな。

2005.05.18

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