『 限界まで愛して 』



 ふふっ、と御剣がふいに軽やかな笑みを浮かべた。
「今夜はずいぶんとご機嫌だね」
 成歩堂が内心の焦りを必死に抑えながらつぶやくと、御剣はますます嬉しそうに笑う。
「当然だろう? そんなに余裕の無い君を見るのは久しぶりだからな」
「そう言うそちらは、ずいぶんと余裕デスね」
 成歩堂の皮肉めいた台詞にも、御剣は表情一つ変えない。
 それどころか……。

(……拷問だよ、これは)
 やわらかな灯りの中に浮かぶのは、白くて滑らかな御剣の裸体。まるで女王様のようにベッドに身体を横たえて、嫣然と成歩堂を誘っている。
 いつもならば、他愛もないキスと愛撫だけで、とろとろに蕩けて、成歩堂にされるがままになってしまう御剣なのに、何故か今夜は平静を保っているようだった。

 いや、理由は分かっていた。
 御剣の言うとおり、成歩堂に余裕がないのだ。
 御剣を欲しくて欲しくて堪らない。今すぐにでも挿れてしまいたいくらいだけれど、御剣の身体の準備が出来ていないことも分かっている。
 強引に突き進むことも出来ず、さりとて欲望は限界で。成歩堂はただ手をこまねいていたのだ。
 そこを御剣にからかわれた、という訳である。


「しないのかね?」
 くすくすと笑う御剣に、成歩堂の忍耐力がブツリと音を立てて弾ける。そして激情の赴くままに、思いっきりまくしたてた。
「したいよ! したいに決まってるだろ。こうしてお前の裸を見ているだけでも射精しそうなのに、どうしろっていうんだ。それとも、いきなり突っ込まれたいのかい。お望みなら、遠慮なくヤッてあげるけど?」

 すると御剣は、深々と溜め息を落とす。
「……全く君は、度し難い愚か者だな。そんなに余裕が無いのならば、私の身体のことなど気にせずに、さっさと突っ込めば良いものを。出来もしないことを言うものではないぞ」
「ぐ……っ」
 御剣には何もかもお見通しだった。こうなっては、もう成歩堂は降参するしかない。

「分かったよ。とりあえず一回出してくるから、ちょっと待ってて」
 さすがに御剣の前でする気にはならず、トイレに向かおうとした成歩堂に、御剣が冷静な声をかける。
「待ちたまえ。そんなことをしては、もったいない」
「何それ、どういう意味……」
 振り向いた成歩堂は、目の前の御剣の姿に呆然とする。


「な……、何やって」
「挿れたいのだろう? だから準備をしている」
 平然と答えた御剣は、成歩堂に見せつけるように、大きく足を開いていた。普段は人目にさらされることのない秘所が露わになっているのは、例えようもなく淫靡な光景だ。

 固く閉じていたはずの蕾は、しっとりと濡れて、御剣のすらりとした指を受け入れている。成歩堂の目の前で、朱鷺色をしたヒダが解され広げられてゆく。
 そのうちに、いつしか指は2本に増えていた。
「……ん……ぅ」
 御剣の唇からは、絶えず甘い吐息がこぼれていたが、それでも視線は、こちらを向いたままだ。真っ直ぐに成歩堂を見つめている。まるで観察しているかのように。

 成歩堂は茫然と眺めることしか出来ない。いつもの御剣らしからぬ大胆さに、ただ圧倒されて、言葉を無くしていた。
 もちろん萎えたのではない。むしろその逆だ。
 抑えきれない欲望は増すばかりで、固く屹立した陰茎は、手を触れなくても弾けてしまいそうなほどだったけれど。

 成歩堂はもっと見ていたいと思ってしまった。
 淫らに腰を揺らし、あえかな喘ぎをこぼしながら、自分の後孔に指を突っ込んで掻き回している御剣を、ずっとずっと見ていたいと思ってしまったのだ。


 すると、ふいに御剣が切なげな声を上げた。
「ああ……、そうだ、成歩堂。もっと……」
「え……?」
「もっと……、私を見ていろ、成歩堂。その目で……」
「僕の目……?」

 思わず成歩堂が尋ねると、御剣は後孔を弄っていた手を止めて、夢見るようにつぶやく。
「そうだ。今にも食い殺しそうに、私を見つめる目が堪らない。もっと私を欲しがるが良い。限界まで……、いやそれ以上に、私を求めろ」
「……そんなの今更じゃないか」
 成歩堂は苦笑を浮かべる。

「僕はいつだって、お前のことを、どうしようもないくらいに欲してるよ」
「だが、いつもは私の方に余裕が無いからな。君の顔を見ることも出来ない」
「それはそうかもしれないけど。だからって、ここまでする?」
 成歩堂が尋ねると、御剣はどこか不安げな口調で、逆に問い返してきた。
「……こんな私は、嫌いか?」

「大好きだよ!」
 成歩堂は即答する。
 御剣が無茶をするのは、彼自身が追い詰められている時なのだ。このところ、お互いに忙しくて会えない日々が続いていたから、きっと心細かったのだろう。

「僕のために、そこまでしてくれるお前が、世界で一番大好きだよ」
「ありがとう、成歩堂」
 御剣は、心から幸福そうな笑みを浮かべる。それを見ているだけで、成歩堂も満たされてゆくのを感じた。
 そして、満たされていないのは欲望だけだ。


「……ところでさ、御剣」
「ム?」
「お前の気持ちは良く分かったから、そろそろ挿れてイイかな? いよいよ限界なんだけど」
「仕方があるまい。本当はもう少し見ていたかったのだがな」
「……勘弁してください」
 成歩堂の言葉に、御剣はくすくすと笑う。

「ならば来たまえ。もう準備は出来ているぞ」
「それじゃ、遠慮なく」
 御剣の言うとおりに、後孔はしっとりと解されて、成歩堂の訪れを待っている。成歩堂は入口に陰茎を押し当てながら、思わずつぶやいた。
「……挿れた途端に出ちゃいそうだな」
「構わんよ。どうせ一度では済まないのだろう?」
「まあね。我慢させられた分、止まらないかも」

「明日の仕事は午後からだ。一晩中でも付き合うぞ」
「……頑張りマス」
 どうやら今夜の御剣はかなりヤル気らしい。
 そこで、先刻まで焦らされた分、今度は御剣を思いっきり啼かせてやろう、と張り切る成歩堂なのだった……。

 
         おわり

 
読んで下さってありがとうございます。

余裕の無いナルホド君を書きたかったのですが、
そこでケモノにならずに、
ヘタレになるのが私らしい(苦笑)。
だから今回は御剣さんに頑張ってもらいました。
たまにはダイタンなのも良いでしょう。

ところで。
今回張り切って書いた割には短いな、と思ったら、
話の前後を端折っているからなんですね。

いきなり事の最中から始まり、
それでいて本番は書かずに終わる……という(苦笑)。
読んでいて物足りなかったらすみません。

それに、やっぱり御剣さん視点じゃないと、
内面描写のごちゃごちゃした部分が無くなるから、
余計にすっきりした感じになるのかもしれません。
そう考えると、ナルホド君って偉大だなぁ。
無駄に悩まないですもんね。

2014.01.13

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