「ところで御剣、何か希望はある?」
「……希望とは?」
「今から何をするかは、お前でも分かってると思うけど。どんな風にされたいか、お前の希望を聞いておこうと思ってね」
成歩堂の意味深な笑みに、御剣の眉間のヒビが深くなる。
「……不吉な予感しかしない」
「まぁそう言わずに聞いてよ。例えば、うつぶせになって後ろから突かれるのと、あおむけになって大股開きで受け入れるのとでは、どっちが良い?」
「どちらもイヤだと言ったら?」
御剣はおずおずと尋ねてくる。おそらく断られると思っているのだろう。
それに反して、成歩堂は深々とうなずいた。
「もちろん良いよ。お前が僕の上にまたがって自分から受け入れるとか、他にも色々と方法はあるからね」
「…………うつぶせで良い」
「了解。僕としては、お前の顔が見えないのは残念だけど、最初はその方がお互いに気楽かもしれないな」
初めてのことにかなり緊張しているらしい御剣の意見は、なるべく尊重したいと思う成歩堂だ。それに一度挿入してしまえば、顔が見えるように体勢を変えることも出来るだろうから。
御剣は小さくうなずくと、意を決した様子でうつぶせに寝転がる。均整のとれたすらりとした肢体は、たとえ後姿でもギリシャ彫刻のように美しい。
この躰をこれからアレコレするのかと思うと、それだけで成歩堂の心は昂ぶった。
「それじゃ、とりあえず解していくところから始めようか。最初はちょっと違和感があるかもしれないけど……」
成歩堂はローションの瓶を手に取ると、中身の液体を御剣の双丘にとろりと零してゆく。同時に自分の指も濡らして、そのまま固く閉じた蕾に触れさせた。
ドアをノックするように入口を突いてやると、御剣が切ない溜め息をもらす。
「……ん……ぅ」
「痛い? 気持ち悪い? 嫌だったら言ってよ」
成歩堂の問いに、御剣はゆるりと顔を上げてこちらを見た。潤んだ瞳は、やはりどこか不安そうだったが、健気にもそっと首を横に振る。
「……大丈夫、だ」
「そう? だったら続きをするよ。あ、もちろん気持ちイイ時も、ちゃんと言ってくれると嬉しいな」
成歩堂は微笑みながら、御剣の後孔を少しずつ解してゆく。中指を一本入れた時には、御剣は小さく身じろぎしただけだったが、指を二本に増やすと、低い呻き声を上げた。
「……痛い?」
「痛くないと言っている。さっさとしたまえ」
言っている内容は勇ましいが、声が震えていて、明らかに強がりだと分かる。それでも成歩堂はここで止めるつもりはない。
(……三本くらいは入らないとダメだよな……)
成歩堂のモノは人並み程度ではあるが、さすがに指三本も入らないところに、すんなり挿入できるほど細くはない。御剣にはなるべく苦痛を与えたくないと思っている成歩堂としては、無理をしたくはなかった。
「もうちょっと頑張ってね、御剣。指、動かすよ」
根元まで差し込まれた三本の指で、胎内をねぶるように掻き回すと、御剣の腰がびくんと跳ね上がる。
と同時に、今まで聞いたこともないような、あられもない嬌声が飛び出した。
「んぁあああ……っ」
その声に自分でも驚いたらしく、御剣は枕に顔を突っ伏したまま、決してこちらを見ようとしない。
そんな初々しい仕草も、シーツをぎゅっと握りしめた指先も、羞恥に染まった頬も、何もかもが可愛らしかった。
成歩堂は御剣の火照った頬に軽いキスを落とすと、彼の耳元でそっとささやく。
「ここ、感じるみたいだね。それじゃ、もうちょっと膝を立てて、腰を上げられるかな。そうそう、その調子だよ」
羞恥で我を忘れているのか、それともすっかり観念したのか、御剣は素直に成歩堂の言葉に従い、腰を高く突き上げてみせた。しなやかな背中のラインが何とも言えず艶めかしい。
成歩堂は御剣の身体を後ろから抱くようにしながら、ホクロ一つない白くて滑らかな肌に舌を這わせる。男の背中を見て興奮している自分が、何だかちょっと可笑しかった。
強く肌を吸い、点々と赤い所有印を付けていく間も、もちろん右手の動きは止まらない。何度か指を出し入れしているうちに、固く閉じていた後孔もすっかり解れて、とろとろに溶けそうになっていた。
「そろそろ良さそうかな」
成歩堂がそう言うと、御剣の身体がびくりと反応を見せる。緊張でこわばったのだろう。
「なるべく優しくするから」
安心させるように御剣の髪をそっと撫でて、成歩堂は入っていた指を一気に引き抜いた。御剣が切ない声を上げているが、さすがにもう構ってはいられない。
今にも弾けてしまいそうに固く勃ち上がっている陰茎に避妊具を付けると、成歩堂はためらいなく御剣の中に押し入ってゆく。
正直に言ってしまえば、もうのんびりしている余裕が無いだけだ。
挿入した途端に出してしまうような失態は避けたいものだが、御剣の胎内は想像していた以上に心地良かった。熱くとろけながらも、しっとりと成歩堂自身を包み込んでくる。
「……ああ、すごいな……」
「成……歩堂……っ」
御剣は苦しげな声を上げる。やはり痛みがあるのだろうか。
それを内心では心配しながらも、成歩堂は猛然と腰を突き上げてゆく。自分でも制御出来ない熱情に衝き動かされて。
「ごめん、御剣。もう止まらないよ」
御剣の腰を両手で持ち上げて、音がするくらいに激しく打ち付ける。その度に御剣が切ない声を漏らした。
「ん……っぁ……っつ……、っふ……く……っ」
「御剣……っ、く……ぅ……」
受け止める御剣も必死だったろうが、成歩堂も嵐のように襲いくる快楽に流されないように必死だった。
それから逃れようと、無意識のうちに御剣の身体をまさぐっていた右手が、彼の中心にたどり着く。そこはあまり昂ぶっておらず、成歩堂の手の中にすっぽりと収まった。
その瞬間、御剣が息を呑んだのが分かった。
そして彼はすぐに深い吐息を漏らす。快楽の喘ぎではなく、海の中で溺れていた者が必死に酸素を求めるように、苦しげな呼吸を何度となく繰り返して。
それは痛みゆえなのか、それとも不快感からなのか。
成歩堂の手の中の御剣自身は確かに勃ち上がってきているのに、御剣はいやいやとかぶりを振るばかりだ。
成歩堂は御剣の身体を後ろから抱きしめながら、耳元でそっとささやく。
「お願いだよ、御剣。お前も僕と一緒にイッて? そんなに身構えないで、二人で気持ち良くなろうよ。僕もお前の胎内に出すから、お前も僕の手の中で射精してよ。さっきみたいにさ」
「成……歩堂……」
御剣が切なげにこちらを振り向く。この体勢では無理があったが、御剣が何を求めているのか、成歩堂には分かっていた。
熱っぽい目で見つめながら、互いの唇を求める。それでも、ほんの少しの距離が届かずに、必死に伸ばした舌先だけが触れ合った。
だがそれで御剣は満足したらしい。成歩堂の唇から零れた唾液を美味しそうに飲み込むと、うっとりと夢見るようにつぶやいた。
「……成歩堂、イキたい……」
「そうだね、僕も同じ気持ちだよ。それじゃ、一緒に天国に行こうか」
そう言いながらも成歩堂は、御剣の陰茎を握っている自分の手の動きだけを速める。今にも射精してしまいそうだったから、少しでも気を紛らわせたかった。
「は……ぁ……ん、……っふ、ぁ……っぅ」
リズミカルに繰り返される成歩堂の手の動きに合わせるように、御剣の喘ぎ声も軽やかに弾みながら、徐々に切羽詰まった響きを帯びてゆく。
そして同時に御剣の後孔も、成歩堂の陰茎を吸いつくような絶妙な力加減で締め付けてくる。それは今まで成歩堂が味わったことのない快楽だった。
(……うわ……、ヤバイな……、これ)
溺れてしまうと思った。
これを知ったら、もう元には戻れない。
この先、どんなセクシー美女を前にしても、性欲なんて湧かないのではないか。御剣の躰以外には、何の興味も持てなくなるのではないか。
そんな気さえした。
だが、それに何の不都合があるだろう。
このままずっと御剣だけを愛し、御剣だけを見つめ、御剣だけを抱けば良い。
そうして永遠に共に居られたら、そんな幸福は他にないと思った。
「……ああ、御剣……っ」
快楽の熱に浮かされながら、成歩堂が腰を揺さぶると、御剣もまた喘ぎ声にまぎれるように成歩堂の名を必死に呼ぶ。
二人の漏らす荒い吐息が、夜の寝室に広がってゆく。お互いにもう声すら出せなくなって、怒涛のように押し寄せてくる悦楽の波に翻弄されるばかりだった。
「……っく……っ」
「っふ……んんぅ……っ」
そうして、二人はそれぞれに低い呻き声と共に白濁液を吐き出す。御剣は成歩堂の手のひらを濡らし、成歩堂は御剣の胎内を汚した。避妊具越しではあったが。
それでも一度や二度の射精くらいでは満足出来なかったのか、成歩堂の陰茎はまだそれなりの硬さを保っていた。このまま御剣の中で朝を迎えられるのではないかと思うほどに。
だが、さすがにそれは御剣の身が持たないだろう。
名残惜しい気持ちを堪えて、成歩堂が御剣の後孔から自身を引き抜いても、御剣は枕につっぷしたままで、びくりとも動かない。
(……もしかして失神しちゃった……?)
自分にそこまでのテクニックがあるとは思えないが、初心者の御剣にとっては十分すぎるくらいの快楽だったのかもしれない。
「えっと……、大丈夫、御剣?」
その言葉に、御剣がかすかに身じろぎをする。どうやら意識はあるようだ。
「身体がつらいなら、無理をしなくても良いけど。出来れば、顔を見せてくれたら嬉しいな」
けれど御剣は、驚くほどに硬い声音で答える。
「嫌だ」
「う……っ」
成歩堂はその一言でめげそうになるが、このまま御剣の後頭部ばかりを眺めていても仕方がない。
「あのさ、御剣。僕はこれでも紳士的な男だからね。射精したら、それで終わり、なんてイヤなんだよ。抱き合ったり、キスしたり、甘い言葉をささやいたり、したいじゃないか。お前だって、そうだろう?」
すると御剣は小さくうなずく。が、そこまでだった。
「何がそんなに嫌なのか、言ってくれなきゃ分からないよ」
内心の苛立ちを反映して、口調がちょっときつくなってしまった。そのことに御剣も気付いたのだろう。渋々といった様子で言葉を紡ぐ。
「……電気を消して欲しい」
「え……? でも、怖いんだろう……?」
「大丈夫だ、だから」
「ダメだよ」
今度は成歩堂が拒否する番だ。
「プライドが高くて意地っ張りのお前が、あんなに正直に打ち明けたんだ。本当に暗闇が苦手なんだろ? だから絶対に消さないよ」
「ム……、そ、それは……」
「こっちを向いてごらん、御剣。どうしても恥ずかしいなら、目を閉じていれば良いよ。僕がキスしてあげるから」
「成……歩堂」
御剣はようやくおずおずと顔を上げる。銀糸の髪がすっかり乱れてしまっているが、それでも十分すぎるほどに美しい。
「可愛いよ、御剣」
火照った顔を隠している長い前髪を軽く掻き上げて、あらわになった白いひたいに成歩堂は口付けを落とす。
それが合図になったかのように、御剣は成歩堂の胸の中に飛び込んできた。
「愛してる、御剣」
「私もだ、成歩堂」
愛の言葉をささやきながら、二人は静かに幸福な眠りに落ちてゆくのだった……。
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