『 タクシー 』




「やぁ、御剣、お待たせ」
「また君はタクシーで来たのかね」
「だって、しょうがないだろ。
 クルマ持ってないんだしさ」
「運転免許くらい取ったらどうなのだ。
 仕事にも差し支えるだろう」

「そうでもないよ。
 無いなら無いで、どうにかなるんだ」
「だが毎回では、タクシー代もバカにならないだろう。
 君の家から私のところまで、一体いくら掛かるのだ?」

「それほどでもないけどなぁ……。
 自転車で来ても良いんだけどさ。
 このマンション高級だから、
 自転車なんて停めておけないんだよね」
「それはそうだろうな」

「だから、しょうがないだろ?」
「私が明日の朝も、君を家まで車で送り届けるのも、
 仕方がないことだと?」
「それはもちろん感謝してるよ」
「ならば行動で示したまえ」

「感謝のキスとか?」
「違う。免許を取るとか、そういうことだ」
「まぁ、そのうちにね」
「当てにならんな、その返答では」


「……ああ、ゴメンゴメン御剣。そういうことか」
「いきなり何だね?」
「いやぁ、僕って鈍いから。
 御剣の言わんとしていることに、
 全然気付かなかったよ。ゴメン」
「だから何だというのだ」

「つまり、アレだろ。
 毎回タクシーで来るのは大変だから、
 いっそのこと一緒に住んでしまえば良いのだよ、
 ってことだろ?」
「そんなこと一言も言っていない」

「相変わらず素直じゃないなぁ、御剣は。
 そんな回りくどい言い方しなくても良いのに」
「だから……、私がいつそんなことを」

「あ、心配しなくて良いよ。
 僕がこの家に転がり込んでくるワケじゃないから。
 やっぱり二人で住むなら、新居を探さないとね。
 もちろん御剣が僕の家に来てくれても、
 全然オッケーなんだけどさ」

「話が……、全く見えない」
「だから、御剣が僕と同棲するって話だろ?」
「何時そんな話になったというのだ」

「最初に話を振ったのは、御剣の方じゃないか」
「断じて違う。単なる君の曲解だ。いや妄想だ」
「まぁ、何でも良いけどさ。
 それで? 引っ越しはいつにする?」
「……頭が痛くなってきた」



            おわり

 
読んで下さってありがとうございます。

人の話を全く聞かないナルホド君でした。
私は今まであんまりこういうタイプのキャラを
書いたことがないので、新鮮で楽しいです。

御剣さんみたいなタイプは大好物なので、
今までにもたくさん取り扱っているんですけどね(笑)。

でもナルホド君は御剣さんを
振り回している自覚はないんだろうなぁ。
むしろ振り回されているのは僕の方だ、
とでも思っているんじゃないかと。

噛み合っているようで、すれ違っているようで。
二人の微妙な関係が好きです。

2013.07.25

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