『 御剣の秘密 』

(後編)




「私は……、浮気をしてしまったのだ」
「ええええええーーーーーー!?」
「君が驚くのも無理はない。
 私自身も信じられない思いなのだからな」
「そんな……、御剣が。僕の……御剣が浮気……、バカな」

「……すまない、成歩堂」
「ハッ……!ごめん、ちょっと取り乱した。
 でもお前のことだから、何か事情があるんだろう?
 いくら僕でも頭ごなしに怒ったりしないよ。うん、多分……おそらく」

「実は、そうなのだ。私はあまり気が進まなかったのだが、
 話があると言われて仕方がなく」
「そ、そうか……、仕方がなく……」
「うム。そして誘われるがままに、ホテルへ……」
「ホテルーーーー!?」

「とても高級なホテルだった。そこで夜景を見ながら……」
「ホテル……、夜景…………」
「私は……、あの人と」
「うわああああー、もういい。そこから先は聞きたくない!」


「二人きりで、食事をしてしまったのだ」
「……へ?」
「強引に誘われたとはいえ、断ることも出来たのだが、
 父の話をしたいと言われてしまってはな……」

「えっと、ゴメン、御剣。ちょっと整理させて」
「……何かね?」
「つまりお前は、誰かと二人でホテルで食事をしたってことだよね?
 その相手もだいたい想像が付いているけど」
「そのとおりだ。ちなみに相手は信楽さんだ」

「だろうな。他の人だったら断れるもんな」
「やはり君は鋭いな」
「そんなお世辞は良いよ。
 それより、信楽さんとホテルで食事をしただけで、
 どうして『浮気』になるんだ?」

「私とて近所のラーメン屋で食事をしたのなら、浮気だとは思わない。
 けれど、夜景を見ながら、ホテルでディナーだ。はなはだ宜しくない」
「それじゃ、食事の後はどうしたの?」
「ムロン、その場で別れたが?」
「全然そんなの浮気じゃないじゃないか! 驚かさないでくれよ」

「ム……、君はそう思うのか?」
「僕じゃなくても誰だってそう思うよ」
「だが、私は……そんなの嫌だ」
「……何が?」

「君が他の誰かと二人きりでホテルで食事をしていたら。
 私はとても嫌な気分になると思う」
「そっか。逆の立場だったらって、考えてくれたのか」
「それとも私は心が狭いのだろうか……」

「そんなことない。御剣がそう思ってくれたの、すごく嬉しいよ。
 僕の方こそ考えが足りなかったね、ゴメン」
「いや、悪いのは私だ。二度とこんなことはしないから、許して欲しい」
「バカだなぁ。許すに決まっているだろ。たかが食事くらいで」


「たかが……? やはり君はそういう考えなのだな。
 誘われれば誰にでもホイホイついていって、
 ホテルで食事をするのだろう!」
「い、いや、しないって。僕のフトコロ具合では、
 せいぜいラーメン屋くらいだよ」

「ならば、おごりだったら行くのだな?!」
「なんでそんなにムキになるんだ。
 お前にとって『ホテルで食事』って何なんだよ……」
「浮気だ。まぎれもなく浮気なのだ!」

「……基準が良く分からないけど……。
 お前が浮気だって思うなら、僕も誰に誘われたとしても、
 ホテルで食事はしないからさ」
「本当だな?」
「この弁護士バッジに誓って」

「よかろう。誰かと食事をするのなら、ラーメン屋にしたまえ」
「はい、分かりました!」
「分かってもらえて何よりだ」
「あれ……? どうして僕が怒られているんだ?」
「自分の胸に聞いてみたまえ」

「なんか納得出来ないなぁ。あ、そうだ」
「何だね?」
「ホテルで食事をするの、僕が相手なら問題ないよね?」
「当然だ。それならば浮気ではない」
「よし、それじゃ、さっそく行こうか。
 お前が信楽さんと食事したホテルへ。もちろん支払いはお前持ちだよ」

「ム……、やはり根に持っていたのではないか」
「もちろん食事だけじゃなくて、部屋を取ってくれても良いからね」
「何故、私がそこまでしなければならんのだ」
「気にしない気にしない」
「なんだか騙されているような気がする……」



                       おわり



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読んで下さってありがとうございます。

「小話」というからにはサラッと読める長さ、
という制限をしているのですが、
今回は長くなったので前後編です。

そもそも私は長文体質なので、
油断すると、どんどん長くなってしまいます。
むしろ短くまとめる方が難しい……。

このネタもこれだけ長くなったなら、
普通のSSにすれば良かったな。
ちょっと説明不足な感じですよね。
これだけ読むと御剣さんが変な人っぽいし。

いや、だって御剣さんって、
デートとかしたことないんじゃない?
ナルホド君と一緒に出かけていても、
それを『デート』と認識出来ていないような感じ。
あ、そういう話も今度書こうっと。

2013.08.05

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