『ラブラブクッキング』




 成歩堂は最近、料理にハマっていた。

 創意工夫を凝らした手料理を、事務所を訪れる面々に振る舞うこともあるが、やはり一番は御剣だ。
 料理の味にうるさい上に、何かと好き嫌いも多い男なので、外食だとなかなか好みの店に辿り着けないらしく、御剣好みの味付けで作る成歩堂の料理は、かなり彼には評判が良いのだった。

「フム……、今日は悪くない」
 などと、しかつめらしい顔で言われると、もっと美味しいものを作ってやろう、という気分になるのである。


 ちなみに今日はポトフだ。
 ごろごろとした野菜は彩りよく、ブロッコリーの緑色が目に鮮やかで、ほこほこの湯気からはコンソメの良い香りが漂ってくる。
「うわあ、美味しそう」
 成歩堂は堪らなくなって、思わずソーセージを一本口に運んだ。ぱりっと音を立てて皮が破れ、中から肉汁が溢れ出てくる。程良く利かせたスパイスも味のアクセントになって、ちょうど良かった。

 実はこのソーセージも成歩堂のお手製だった。
 腸詰めにする器具もわざわざ買いそろえ、皮も近所の精肉店から取寄せたものだ。最近は百貨店などでも売っているが、やはり本格的な皮の方がぱりっとして美味しい。
 中身に詰める具材にもこだわり、スパイスの分量や調合もあれこと試した末に、ようやく辿り着いた黄金比だった。
 まさに成歩堂ご自慢の一品だ。


「よし、さっそく御剣に電話だ!」
 煮物なので時間が経っても美味しいが、やはり出来立てあつあつを食べさせてあげたいと思う、成歩堂の健気な恋心である。
「あ、もしもし御剣、僕だけど」
『ああ、何かね?』
「今からうちに来ないか? お前を喜ばせたくてさ」
『それは構わんが……、いったい何事なのだ』

「もちろん僕の自慢の肉棒を、お前に食べさせてあげるんだよ!」
『宇宙のチリになりたまえ』
 ガチャン、と荒々しい音を立てて電話が切れる。
 いきなり御剣が機嫌を損ねた原因が分からず、途方に暮れる成歩堂だったが、程なくして自分がとんでもない言い間違いをしてしまったことに気が付いた。

「うわあー、違うんだよ、御剣。そんな意味じゃないったらー!」
 あわよくば、そんなことをしたい下心もない訳ではなかったが、無意識のうちに己の欲望が溢れ出てしまったのだろうか。
 慌てて電話をかけ直す成歩堂だったが、その日、御剣は決して電話には出てくれなかったのだった……。



            おわり

 

読んで下さってありがとうございます。
ひどいオチですみません……(苦笑)。

実は最初にこのオチを思い付いて、
自分でもネタのひどさに笑っちゃいましたが、
有りだろうか、いや有りだな、と思い直し。
そのための前振りを頑張ってみたという訳です。

でもナルホド君は凝り性だと思うのですよね。
夢中になると、まっしぐらタイプだから。
それである程度突き詰めると、
あっさりと熱が冷めてしまう感じかな。

あ、でも御剣さんに対してだけは、
ずっと情熱的でいて欲しいです。

2013.08.12

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