『 花恋慕 』
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行がふと窓の外を見ると、庭にサザンカの花が咲いていた。 周囲の木々はすでに葉を落とした後で、モノクロームの寂しげな光景が広がる中で、その花だけが鮮やかな紅の色をまとっている。 冬の凍えるような寒さの中でも、必死に花を咲かせるけなげな姿が胸を打つのか、行はそこから目が離せなかった。 だがそれでも、この花がいつ咲いたのか、行は知らない。 よほど気にして観察していない限り、つぼみの時は気付かないものだ。花が咲いてみて、ようやく人はそこに目を向ける。 ……それならば、もしも花が咲かなかったら? その木は誰にも知られることもなく、ただ密かに生き続けるのだろうか。名も無く存在も無く、たった一人で息を殺すようにして。 それは、かつての自分と同じだ。 生きているとも言えないような状態で、誰に気付かれることもなく、誰を心に留めることもせずに、ただ呼吸をしているだけのイキモノだった。 ……仙石と出会うまでは。 そして今、行の心の中には、一輪のつぼみがひっそりと存在している。 この花がどんな色をつけるのか、どんな大きさや形をしているのか。そもそも無事に花を咲かせることが出来るのか、行にも良く分からないけれど。 花が咲くのをただ待っているのは、嬉しいような恥ずかしいような、ちょっとくすぐったいような気持ちではあるけれど。 ……いつか、いつの日にか。 この花が咲いた時には、仙石は気付いてくれるだろうか。自分のことを思い出してくれるだろうか。 あの描きかけの絵が仕上がる頃には、きっと花も咲くだろう。 『恋』という名の一輪の花が……。 おわり |
ここまで読んで下さってありがとうございましたm(_ _)m いつもに増して短い上に、訳の分からんポエムですみません。 こういうの、解説するのは野暮だよなぁと思いつつも、 作中で説明しきれていないので、 ここで書くしかないんですね。情けないわ。 という訳で、これは冬の話です。 まだ仙石さんとは再会していません。 『救出』の絵を描いている途中ですね。 仙石さんと会うことすら考えていない行です。 こういうことをくどくどと作中に盛り込んでいくと、 話のテーマがボケてしまうし、 雰囲気も台無しになってしまうので、 どうしても描写が最小限になってしまうのですが。 分かりづらいよね、と思います。すみません。 ついでに、このお題を書こうと思った時に、 最初は仙石さんと花見をして宴会で飲んで騒いで……、 という話を考えました。 実際に途中までも書いたのですが、 タイトルとあまりにも合ってなくね? と気付いたので、止めました(苦笑)。 そこで急遽、この話をでっち上げたので、 こんな似非ポエムが出来上がってしまったのでした。 2009.11.11 |