【えせほし─似非星─ 】 kyo-ko

『好きじゃない、なんて言っても』


「ん……っふ……ぅ」
 行は仙石の腕の中で甘い吐息を付いた。

 夕食を終え、風呂にも入り、でも寝るにはまだちょっと早すぎる、そんな時間に二人で一つのソファに座って、身体を寄せ合っていれば、こういう状態になるのは、ごく自然の成り行きだろう。
 まぁそうだろうな、と思うし、何もかもすっ飛ばして、いきなり寝室に連れ込まれるよりは、ずっと良いけれど。

 それでも、物事には限度というものがある。
 お互いの唇が離れた隙を見計らって、行は仙石の身体を力いっぱい押しのけた。
 もちろん本気を出せば、仙石の一人や二人、簡単に倒してしまえるけれど、そこはちゃんと手加減したのだから許して欲しい。
「……何だよ」
 不服そうな仙石に、行はそっけなく答える。
「しつこい」

「お前だって楽しんでたじゃねえか」
「……別に、そんなこと」
 行は思わず頬を染めた。
 つい先刻まで、自分の唇からこぼれていた甘い響きが、どんな意味を持っているのかなんて、指摘されなくても分かっている。
 それを素直に認めるかどうかは別として。

「じゃ、続きをやろうぜ」
「それが、しつこいって言うんだ。大体、何であんたはそんなにキスしたがるんだよ」
 恨みがましい目でにらみつけながら、行が精一杯すごんでみても、仙石はしれっとした顔で言ってのけた。
「好きだから……、に決まってるだろ」


 その言葉に、行はどきりとする。
 仙石から好きだの愛してるだのと、言われることは日常茶飯事ではあるが、それで慣れるというものでもないらしい。
 特に、こういう不意打ちのように、それでいて真剣なまなざしで見つめられて言われると、どうにも落ち着かない気分になってしまうのだ。

「……いきなり何言ってんだ、バカ」
 行は慌てて目を逸らした。仙石の視線には強い力がある。正面から受け止めると、簡単に屈服させられてしまうから。
「でもよ、お前だって嫌いじゃねえだろ?」
 無邪気なまでの口調で尋ねられ、行はぼそぼそと口の中で答えた。
「……嫌いじゃ……ないけど……」

「それなら良いじゃねえか。そら、続きするぞ」
「え……?」
 行が戸惑っているうちに、仙石の顔がどんどん近付いてくる。反射的に両手が顔の前に出て、仙石の唇をブロックした。
「何しやがる」
「それはこっちの台詞だ」


 怒りをあらわにした行に、仙石はふてくされたようにつぶやく。
「お前も好きだって言ったじゃねえか、……を」
「それとこれと話が……、え?」
 最後の方が聞き取れなかった行が尋ねると、仙石はぼそりと答えた。
「だから、キスだよ。……好きだろ?」
「な……っ」

 どうやら完全なる勘違いだったようだ。
 行は思わず顔を真っ赤に染めて、ついでに仙石に一発食らわしてやってから、きっぱりと言い切った。
「好きじゃない!」

               おわり


ここまで読んで下さってありがとうございましたm(_ _)m

行たん視点ではありますが、今回はちょっとコミカル。
基本的に行たんはツンデレなので、
お題の台詞は定番中の定番ですよね。
仙石さんに素直に好きだと言えない感じ。

でも、それだと当たり前すぎるので、
ちょっとひねってみましたよ。
オチにすぐ気付いちゃった人もいるでしょうが、
笑って許してやってくださいませ。

ぶっちゃけてしまうと、「キス」になっているものが、
「セックス」に変わっても、なんら不都合は無いのですが、
お題なので、そこまでは……、と思い、
キス止まりとなりました。すまん。

ついでに、お題じゃなかったら、
この続きも書くんですけどね。
ここから先はご想像にお任せします。
どうせ仙石さんに上手く丸め込まれて、
結局はイチャイチャするのでしょうけれど(笑)。

2010.01.20

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