【えせほし─似非星─ 】 kyo-ko

『お前と共有するものは、空気とことばと、それともう一つ』


「んあ……?」
 仙石はふいに目を覚ました。
 そして、目を覚ましたことで、自分が眠っていたのだということに気付く。
 まだぼんやりとする頭を振って、目を上げると、すぐそこに、行の驚いたような顔があった。

「わ、仙石さん……っ」
「行?」
 意外なほどの至近距離に、行の端正な顔があって驚くが、それ以上に、行の方がびっくりしたような表情だった。普段はあまりそういったことを表に出さないから、珍しい光景だ。

「……起きたのか」
「ん? ああ、そうらしいな。いつの間にか寝ちまってた」
 仙石は苦笑を浮かべる。
 わざわざ行の家までやって来たものの、夕食を済ませ、風呂にも入り、ちょっと一杯やっている途中で、どうやら気持ち良くなって、ソファで寝てしまったのだろう。まだ行といちゃいちゃしてもいないというのに。歳のせいだろうか。


 すると行は、何故かやわらかな笑みを浮かべる。とはいえ、仙石以外の人間が見ても、笑っているとは分からないだろうが。
「最近、忙しかったんだろ。疲れてるんだよ、きっと」
「まぁな。新商品が次々に出てくるからよ。毎日のように入れ替えたり、キャンペーンだ試飲だってな。酒屋も楽じゃねえぜ」

 センゴクストアはすでにただの酒屋ではなく、扱う商品も手広くなっていて、ほとんど普通のスーパーと変わりないが、それでもやはり主力商品は酒類が多かった。
 これから暑くなる季節に向けて、ビールだ発泡酒だなんだと各社が新商品を続々と出してきているから、その対応だけでも大変なのだった。

「それじゃ、今日はもう寝たらどうだ?」
 何だか行がやたらと優しい。いつになく、にこやかな表情なのも、違和感がある。
「……何だよ、お前らしくねえな。どうした、いつもの憎まれ口は」
「別にオレだって、いつもそんなことばっかり言ってる訳じゃないよ」
 行は途端に拗ねた顔になる。そうすると、ちょっと子供っぽいあどけなさが垣間見えて、とても可愛らしい。それに何よりも、その方がずっと行らしかった。

「ああ、その方が良いな。やっといつものお前だ」
「……何だよ、それ」
 行はますますふてくされてしまうが、本気で怒っている訳ではないことも知っている。こうやって行をからかうのも、仙石の楽しみの一つだ。
 ようやく半分眠っていた頭が覚醒してきて、それと同時に、別の欲望もむくむくと湧いてくる。


「そらよ……っと」
「うわ、いきなり何するんだよ」
 こちらに背を向けていた行の身体に腕を伸ばして、そのまま抱き寄せる。行の猫のようにしなやかな身体が仙石の胸の中にすっぽりと収まった。
「ここがお前の定位置だろ。大人しくしてろ」
「そんなの、誰が決めたんだ。バカ、離せ……っ」
 往生際が悪く、行は仙石の腕の中でジタバタ暴れているから、耳にそっと息を吹き込んでやった。それだけで行はびくんと身体を震わせて、動きを止める。

 それを良いことに、仙石は行の全身を両手で撫で回した。すでに硬くなった胸の突起が、Tシャツの上からでもありありと分かる。すかさずつまみ転がしてやると、行が可愛らしい喘ぎを上げた。
「ひゃ……ぁ……ん……っ」
 その反応の良さに仙石はほくそ笑む。再会してから一年にもなれば、何も知らない初心な身体も、すっかり仙石仕様に染まっていた。それがまた愛しくてたまらない。

「……背中に、当たってる……」
 ふいに行がぼそりとつぶやいた。
 後ろ向きの行の身体は、仙石の足の間にすっぽりと収まっている状態だから、ちょうど行の背中の辺りに、仙石の欲望の証が当たっているのだろう。
「ん?これが欲しいか?」
 くつくつと仙石が笑うと、行は慌てて首を横に振った。

「ち…、違……っ」
「ま、そのうちにな」
 性欲絶倫の若造ではないので、今すぐ挿れたい、という訳でもない。行がその気になるまで、のんびりと相手をしてやるのも、また楽しいものだ。
 行の白いTシャツの下から手を入れて、滑らかな肌の感触を味わっていると、うっとりと夢心地になってくる。


 ……こうしているうちに、また寝ちまったりしてな。
 仙石は苦笑と共に、そんなことを考えるが、ふと先刻のことを思い出す。
「そういや、お前さっき何やってたんだ?」
「さっき……?」
「俺が起きた瞬間だよ。お前、やけに傍にいたじゃねえか」
 仙石が尋ねると、行は明らかに挙動不審になった。
「な……、何でもない」
 どこからどう見ても、何でもなくはない雰囲気だ。

「そう言われると、余計に気になるな。ほれ、さっさと白状しやがれ」
「何でもないったら……っ」
 執拗に続けられている仙石の愛撫にも屈することなく、行は必死の抵抗を見せる。それでももちろん仙石は許してやるつもりはなかった。
「そうか……。それじゃ、言わねえんなら、このままここでヤッちまうぞ」
「な……っ」
 行は絶句する。

 その手の行為にも最近はすっかり慣れたとは言っても、やはりベッドの中以外の場所では抵抗があるのか、なかなか応じてくれることはなかった。それを逆手に取った、分かりやすく言えば脅迫だ。
 もしも、行がこれに応じずに、意地でも白状しなかったとしても、明かりがしっかり点いたリビングのソファで、あんなことやこんなことをさせられる。

 それだけは勘弁してくれ、と行が白状すれば、気になっていたことが分かって、仙石の好奇心は満たされるという訳だ。それにソファで致さないとしても、結局はベッドに運んで続きをするのだから、行がどちらを選んでも仙石に損は無い。
 そのことに行も気付いたのだろう。悔しそうに唇を噛みしめて、ぼそりとつぶやく。
「……ずるい」


「まぁな、年の功って奴だ。で、どうする。俺はどっちでも良いぜ」
 行はしばらく悩んでいたが、仙石が許してくれないと悟ったのか、一つの結論に達したようだ。
「……分かった、言うよ」
「おう、そうか。それで? 何やってたんだ」
 先を促す仙石の言葉にも、行は少しためらってから、おずおずと口を開いた。かすかに頬を桜色に染めて。

「……あんたの寝顔、見てた」
「え?」
 仙石はきょとんとする。まさかそんな答えが返ってくるとは思わなかったのだ。
 それに、こんなオッサンの寝顔を見て、楽しいのかどうか良く分からないし、そのことを必死になって隠す行の気持ちも良く分からない。
 ただ一つ言えるのは、恥らっている行は可愛い、ということだけだ。

「なるほど、なるほど、そりゃ良かった」
 仙石はおざなりに返事をすると、ほんのり赤く染まっている行の耳たぶを甘噛みしつつ、吐息を中に吹き込んだ。
「な……、何するんだよ。あんたが言えって」
「ああ、ちゃんと言えたからな、ご褒美をやるよ」
「ちょ……っ、んぁ……っ」
 さっそく再開された愛撫に、行は切ない吐息をこぼす。仙石が昂ぶっているのと同様に、行も感じているから、他愛もない刺激を与えるだけで、簡単に乱れてしまうのだ。

「……約束が違……っ」
「しょうがねえだろ。あんなに可愛い顔をされたら、もう我慢出来ねえよ」
「仙石さんの……、バカ……ッ!」
 行の抗議はもっともだったが、それもすぐに愛らしいあえぎ声に変わってゆく。
 そして結局、ソファの上で何度も啼かされてしまうことになるのだった……。


               おわり


ここまで読んで下さってありがとうございましたm(_ _)m

えーっと、共有していたのはソファでした(笑)。
こういうお題の時は、どうしても湿っぽくなりがちなので、
なるべく明るい話にしてみました。
仙石さん視点だと、やっぱり違ってきますね。

ウチのサイトでは、ヘタレ攻めの仙石さんなので、
普段は行たんに振り回されっぱなしですが、
時にはこうしてエロオヤジっぷりを発揮することも。
たまにはこういうのも良くないですか?

二人のほのぼのした会話を書いているだけで、
私もすごく楽しいし、幸せになります。
この二人って、本当に館山で暮らしていそうなんだよねー。
場所の設定がきっちりしているからでしょうか。

2009.12.09

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