『嫌い、だけど好き 嫌いだから、好き』
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セックスは好きじゃない。 正直にそう言ったら、仙石は絶句した。 だが、それも当然かもしれない。 今まさに、その『好きじゃないこと』を終えたばかりの二人なのだから。しっとりと汗ばんだ肌がまだ乾いてもいないというのに。 やがて仙石は、行の滑らかな背中を楽しげに撫でていた手をおずおずと引っ込めると、ぼそりとつぶやいた。 「……今更かよ」 「なんか言いそびれた」 そっけない行の答えは、どうやら仙石にはお気に召さなかったらしい。 「そういうことは、最初に言えってんだ」 苦々しい口調でこぼしてから、仙石はふいにハッとした表情になる。 「ちょっと待て。ってことはだ、俺はお前の嫌がることを、ずっと無理強いしてたってのかよ」 自分で自分の言ったことに、衝撃を受けたのか、仙石は頭を抱えているが、行の返答はまたも簡単なものだった。 「別に嫌じゃないけど」 「へ?」 仙石はきょとんとしているから、行はもう一度同じ答えをする。 「別に嫌じゃないよ」 「お前、さっき好きじゃねえって言っただろうが」 「好きじゃないけど、嫌じゃない」 「意味が分かんねえよ」 どうやら仙石は心底分からないらしく、ただでさえいかめしい顔をますます強面にしているが、行にとっては仙石が分からないということが分からなかった。 「あんたが俺にすることで、嫌なことは一つもない。どんなことをされても、嫌だなんて思うはずがない。でも好きじゃないことも時にはあるよ」 行は出来る限り率直に自分の気持ちを言葉にしたけれど、仙石はまだ腑に落ちない表情をしている。 「好きじゃないことをされたら、普通は嫌だって思うもんだろ」 「相手があんた以外だったらな」 行の答えは単純だ。そして仙石を混乱させる。 「それじゃ俺はどうすりゃい良いんだ。もうお前とは出来ないってことか? それとも嫌じゃないならして良いのか」 「して良いよ」 しれっと答えた行に、仙石は厳しい目を向ける。 「お前は黙ってろ。余計にややこしくなるだろ」 「オレの問題なのに」 「うるせえ。こっちは大事な考え事をしてるんだ」 そう言ったきり、仙石はブツブツと一人で悩み始めてしまうから、行は何も言えなくなった。ついでにとても退屈だ。 そこで行は、仙石の身体にぎゅっとしがみついた。 「……何やってる」 「退屈だから、もう寝ようかと」 「寝るな! それから足を絡めるな! おかしな気分になっちまうだろ」 「なっても良いよ」 行の言葉に、仙石は頭痛を堪えるような顔をして、しみじみとつぶやいた。 「どうして俺は、こんな厄介な奴を好きになっちまったんだろうなぁ」 そして何かを振り切るように、行の身体をぎゅっと抱きしめるのだった……。 おわり |
ここまで読んで下さってありがとうございましたm(_
_)m
なんかタイトルとあんまり合っていませんが(苦笑)。 タイトルだと、またも一人でぐるぐる悩む行たん、 相変わらずの暗い話……になっちゃいそうだったので、 そっちから離れよう、と思ったらこんな話に。 たまにはコメディも良いのではないでしょうか。お題だし。 この話は行視点で書いているつもりでしたが、 途中から仙石視点の方が良いのでは?と思い始め、 最後には訳が分からなくなってしまいました。 微妙な文章でスミマセン。お題だから良いか。 (お題なら何でも許されると思ったら大間違い) えーっと、普通の人とズレまくる行たんと、 それに振り回される仙石さん、というのは、 書いていても、とても楽しいテーマです。 しかも行たんだと、これがディフォルトというか、 こんな言動をしても、全然おかしくない気がして。 悩まなくてもすんなり出て来るんですよねー、何故か。 読者様をも混乱させているかもしれませんが(笑)。 2009.08.27 |