【えせほし─似非星─ 】 kyo-ko

『なぁ。その痛みはやっぱり、苦しいのか?』


 二人でのんびりとテレビを見ていると、時折、行が画面から目をついと逸らすことがある。
 どこか遠くを見つめるようなまなざしをして、きつく唇を噛みしめる、そんなことが。

 そして、そういう時には、いつも決まって画面に幸福そうな親子の姿が映っているのだ。
 ホームドラマやお涙頂戴ドラマなど、家族や親子が出てきそうな番組は、最初から見ないようにしているけれど、CMやら番宣やらで、どうしても遭遇してしまうこともある。

 幼い子供が母親と手を繋いでいたり、少年が父親とキャッチボールをしていたり、両親と子供たちが温かい食卓を囲んでいたり。幸福な家庭というものを絵に描いたら、きっとこうなるだろう、という場面だ。
 仙石自身もそんな時は色々なことを思い出されるので、苦手ではある。かつては持っていたはずのもの、失ってしまったものを見せつけられて堪らなくなるけれど。
 行にとっては、それ以上なのだろう。


 仙石は、行のこれからの人生を幸福にしてやることは出来る。
 だが、行の過去まで幸福なものに変えてやることは出来ない。
 それでも、いつかは訪れるだろうか。
 行の中に存在する思い出が、全て幸福なことだけでいっぱいになるような日が。
 行が画面の中で幸福そうに笑う親子を見ても、平気でいられるようになる日が。

 そんな日が来ると良い。
 いや、きっと来る。仙石はそう信じていた。
 そこで仙石は、行の身体を後ろからぎゅっと抱きしめる。
 すでにテレビの画面は変わっていて、お笑い芸人が馬鹿馬鹿しいことを話しているけれど、それでも構いはしなかった。

「……仙石さん?」
 行が戸惑ったような声を上げて、こちらを見つめる。が、嫌がってはいないから、仙石はそのまま抱きしめ続ける。
 自分のぬくもりを分け与えるように……。



               おわり

ここまで読んで下さってありがとうございましたm(_ _)m

えーっと、どうでも良いことですが、
私の設定では行の家にはテレビはありません。
情報は新聞とネットで入手出来るし、見たい番組もないので。

でも時々、テレビがらみのネタを思いつくことがあります。
シリーズ本編では入れづらいけれど、お題だから良いか。
そんな気持ちで、今回は例外的に書いてみました。

なんて、そんなこと言っても、
読んでいる人は全く気にしないでしょうけれどね(苦笑)。

2009.02.06

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