【えせほし─似非星─ 】 kyo-ko

『理由なんていらない。ただ好きなんだ』


「お前、うずら好きだろ。いっぱい入れといてやったぞ」
 今日のメニューは中華丼だ。
 仙石の言うとおりに、大きめの深皿に盛りつけられた行の方には、うずらの卵がたくさん入っている。仙石にしては凝った料理を作る、という訳ではなくレトルトだけれど。

「別にそんなことない」
 行は即答した。
 自分に好き嫌いなど存在しないし、うずらの卵を好きだと思ったこともない。子供はこういうものが好きだろうという、仙石の思い込みではないのだろうか。

 すると仙石はいたずらっぽく笑った。
「それじゃ、自覚してねえんだな。お前はいつもうずらの卵は最後まで残しておくし、取っておいたそれをすげえ嬉しそうな顔で食べてるんだぞ」
「そ……、そんなこと」
 反論しようとする行の声は弱い。そう言われてみれば、そんな気もするからだ。


「でも……っ」
「でも、何だよ?」
「もしかしたらオレはうずらの卵が好きかもしれないけど、でもこんなにはいらない。あんたと同じ数で良い」
 行にとっては至極当然な主張だったのだけれど、仙石は呆れたような顔になる。

「……ったく、どうしても認めたくねえのか?良いじゃねえか。好きなものは好きって認めちまった方が楽だぞ。何かを好きになることに理屈なんて無えんだからよ」
「え……」
 仙石の言葉に、行は絶句した。

 誰かが何かを好きになることに、理屈や理由など必要ないのだ。
 思えば、目の前で能天気に笑っているむさくるしいオッサンを、どうしてこんなにも好きなのか、言葉で説明出来るものでもない。
 好きなものは好き。それで良いではないか。
 うずらの卵と最愛の恋人とを、同列で考えるのもどうかと思うけれど。


「うん、そうだな。……好きだよ、仙石さん」
 そう言ってみると、仙石はまるでゆでダコのように真っ赤になった。
 そこで行はくすっと笑って付け加える。
「……うずらの卵が」
「あ、そうか。そうだよな。うずらか。そっちの話な。あー、焦ったぜ。あははは」
 頭を掻きながら、わざとらしい笑顔を浮かべる仙石を見つめ、してやったりと思う行なのだった……。



               おわり

ここまで読んで下さってありがとうございましたm(_ _)m

えーっと「うずら」を好きなのは私です。
普通のゆで卵はそれほどでもないのですが(嫌いじゃないけど)、
うずらは何故かすごく好きなんです。
そんな気持ちを込めてみました(笑)。

ついでに、読んでいるうちに
マッキーの歌を思い出した方は正解です。
お題の場合はその程度のネタでもGO!

特にこのお題のシリーズはシリアスになりがちなので、
たまにはこういうほのぼの話も良いのではないでしょうか。


2009.01.24

戻る     HOME