『ただ、偶然かもしれなかったあの瞬間』
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あの時、あの場所に…。 二人が同じ船に乗り合わせてしまったのは、偶然なのだろうか。 それとも…。 …こんな任務には向いていない。 行は今日何度目かの深い吐息をつく。 そもそも人と触れ合うことも、係わることも得意ではないのだ。明らかな人選ミスだと思う。 無論、たとえどんな任務であろうとも、与えられた以上は完璧にこなしてみせる自信はある。いや、完璧に出来て当たり前、失敗など許されぬ世界だ。 上の人間が何を思って自分をここに割り当てたのかは分からないけれど、こうなった以上は、単なる一海士として目立たぬよう潜み続けるしかない。 そんなことは分かりすぎるほど、分かっていた筈なのに…。 「約束なんて、するんじゃなかった」 誰にも聞こえないようにひそやかな声で、行はぽつりと呟く。 他愛もない独白でも、プライバシーなど存在しない狭い船の中では、誰に聞かれるか知れない。 聞かれた所で、どうということもない言葉ではあるが。…どうしてこんなにあの約束が胸に重く残るのだろう。 どうして、あんなことを言ってしまったのだろう。 『じゃ、オレ買ってきます』 それは必死に海を描こうと戦っていた男の背中に向けた言葉。 自分がとうの昔に失ってしまったものを、今なお抱き続けている男への憧憬か。 あの男と係わるようになってから、自分で自分がままならない。ふいに思ってもいなかったようなことを口走ってしまう。心の奥から突き動かされる感情を、制御出来なくなってしまう。 こんなことは、今まで一度もなかったのに…。 おわり |
ここまで読んで下さってありがとうございましたm(_
_)m
行が悩んでおります。 しかもやっぱり乙女な感じ?(苦笑)。 どうも行視点だとモノローグが多くなって、乙女になるなぁ。 私の書くものはみんなその傾向はあるんですけどね。 つまり受けがウジウジ悩んで女々しくなるという(爆)。 そんな行、ヤダよ。 2005.02.02 |